現代を見つめて(64) 依存症からの脱却 文・石井光太(作家)

依存症からの脱却

東京五輪以降、日本各地で緊急事態宣言が延長されたり、まん延防止等重点措置が新たに適用されたりすることで、外出自粛の空気が高まっている。そうした中で急増しているのが、「インターネット・ゲーム依存」だ。

これは、二〇一九年にWHO(世界保健機関)によって薬物やギャンブルと並ぶ依存症の一つと認定されたもので、ネットやゲームにのめり込むあまり、勉強や仕事どころか、生きることさえままならなくなる症状をいう。少なく見積もって、男性の三%、女性の一%がそれに当たるとされている(男性はゲーム、女性はSNSへの依存度が高い)。

当事者に話を聞くと、コロナ禍だけが原因で依存症に陥っているわけではないことがわかる。子供にせよ、大人にせよ、彼らに共通するのは、現実世界に居場所を見いだせていないことだ。

たとえば子供なら、親との関係がうまくいっていない上に、学校でもいじめなどを受けている。大人なら、家庭が崩壊している上に、会社でも蔑(さげす)まれるような立場にいる。

こうなると、人はネットやゲームの世界へ現実逃避し、そこで自尊心を取り戻そうとする。ゲーム仲間に称賛されたり、SNSで〈いいね〉を押してもらったりすることでアイデンティティーを確立するので、依存の度合いはより高まる。

家族など周りの人は、スマホやゲームを取り上げれば、依存症を治せると考えがちだ。だが、それをしたところで、彼らが抱えている根本的な問題は何一つ変わっていない。だから、スマホを手に入れれば再び依存症になり、そうでなければ別の形で現実逃避をする。

もし、真の意味で依存症から脱却させたければ、周りが変わらなければならない。親が子供の意志を尊重する、配偶者や家族がきちんと向き合う、学校や会社が受け入れる……。当事者にとって現実世界が生きやすくなることが、回復への道のりなのだ。

そう考えれば、コロナ禍におけるインターネット・ゲーム依存の急増は、日本社会の中にあった「生きづらさ」が露呈した現象といえるだろう。私たちが持つべきは、社会こそが人々を依存症に陥れているという視点なのだ。

プロフィル

いしい・こうた 1977年、東京生まれ。国内外の貧困、医療、戦争、災害、事件などをテーマに取材し、執筆活動を続ける。『アジアにこぼれた涙』(文春文庫)、『祈りの現場』(サンガ)、『「鬼畜」の家』(新潮社)、『43回の殺意――川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(双葉社)、『原爆 広島を復興させた人びと』(集英社)など著書多数。