利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(48) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

「コロナ敗戦」と再生への決意

それではどうすればいいだろうか。まずは、このような「原因と結果の関係」に関して、仏教をはじめとする古典的な知恵を思い出すことだ。残念ながら人々の苦しみという結果は、直接には政治の無為無策という悪しき行為が原因だが、さらにその奥には、国民がそういう政治を生み出してしまったという問題が究極の原因としてある。

自分はそのような政治には反対したのだから、理不尽だと感じる人もいるかもしれない。それでも国民の一員である以上、この「苦」の結果には影響を多かれ少なかれ受けざるを得ないのである。だからこそ、政治は大事なのだ。

よって、まずは一人ひとりがこの因果関係を自覚して問題を反省し、これからは善い行為を重ねていこうと改めて決意する必要がある。個々人の人生においても、選挙をはじめとする政治的行為においても、だ。ここから、新しい日本、新しい世界への再生が始まるに違いない。

日本はかつて第二次世界大戦で大失敗して、深甚な犠牲のもとに反省して再生を決意し、戦後の繁栄を実現した。今は新型コロナウイルスとの戦いに敗北したようなものだ。でも、いわば“コロナ敗戦”から立ち上がって再生することも、同じように不可能ではないのである。

プロフィル

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など。

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