利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(43) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

近代国家再生の希望

仏教をはじめ宗教的な智慧が洞察していたように、政治は人々の生活に大きな影響を与える。一強支配といわれた長期政権が終焉(しゅうえん)するということは、それを喜ぶにしても悲しむにしても、別の政治的可能性が現れるということでもある。

政権継承劇と同時並行で、2野党の合流が行われて、その規模において政権に対峙(たいじ)しうる別政党が久しぶりに誕生した。改めて「立憲民主党」という党名となり、政治の役割は、「自助・共助」ではなく「公助」だと主張して、政権とは明確に異なるビジョンを提起しつつある。

実を言うと私は、2015年に当時の民主党を念頭に置いて、立憲や憲政という名称のもとに、新しい理念を確立して野党が結集して立憲連合を形成することを提案した。黒船来襲の危機から日本を救った明治維新のように、違憲状態にある危機に対して「平成維新」を実現するための方策だった。その後の5年間に、民進党への改名とその分裂が起こり、平成という時代も去ったが、令和になってようやく、ほとんど同じアイデアが実現したことになる。

これによって与野党の拮抗(きっこう)からダイナミズムが回復すれば、沈滞していた政治が再起動するという希望が生まれるだろう。祈りは大事だが、実際に幸福や繁栄を実現するためには人々の現実の行動も必要だ。政党間競合による切磋琢磨(せっさたくま)の中から、正義と公正が政治に甦(よみがえ)り、徳義に基づいて近代国家が再生することを祈りたいものである。

プロフィル

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など。

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