『現代を見つめて』(43) 温かな人間をつくっていこう 文・石井光太(作家)

温かな人間をつくっていこう

あなたに子供がおらず、養子をもらうことを考えていたとしよう。そうした場面で、いのちについて考えさせられることが今、起きている。

八年ほど前から、私は定期的に特別養子縁組の取材をしている。普通養子よりも法律的に実子に近い形で、他人の子供を引き取り、育てることのできる制度だ。父親がわからない、学生で経済力がないなどといった理由で、実親は支援団体を通して子供を特別養子に出すのだ。

この特別養子縁組の現場で、近年注目されているのが障害児の問題だ。実親が我が子に障害があると知って育てる気持ちを失い、支援団体を通して特別養子に出すのである。ダウン症の子供が多いという。

背景には、出生前診断件数の増加がある。日本で行われる出生前診断は、ここ十年で二・四倍の約七万件に上り、三十五歳以上の妊婦に限れば四人に一人が受けているといわれている。そこで胎児に異常があるとわかったものの、中絶可能な時期を過ぎているなどで、出産後に特別養子に出すのだ。

支援団体は、実親からそうした子供を会員へ特別養子として引き渡す。会員は不妊症などにより子供がいない夫婦だ。彼らは入会の際に「どんな子供であっても必ず引き取ること」という契約を交わしており、破れば会員を辞めさせられる。それでも、七、八割の夫婦は障害児の引き取りを拒むそうだ。

「両親が認めてくれなくて……」

そんな言い訳をする人もいるらしい。

一方で、喜んで障害児を迎える夫婦もいる。ある夫婦はこう言った。

「私は妊娠することができませんでした。どんな子でも、私のもとに来てくれるなら大歓迎です」

別の夫婦は、自身の両親に相談した時に諭されたことに触れ、次のように述べた。

「両親から『おまえだって障害があるかもしれないと言われて生まれてきたんだぞ』って言われました。そんなふうに生んでもらった私が、断れるわけなんてありません」

日本は国を挙げて科学の発展に力を入れており、今後も出産前に様々なことがわかるようになるだろう。だが、こうした問題にぶつかった時に、温かな考え方ができる人を育てているだろうか。今必要なのは、そうした教育だと思う。

プロフィル

いしい・こうた 1977年、東京生まれ。国内外の貧困、医療、戦争、災害、事件などをテーマに取材し、執筆活動を続ける。『アジアにこぼれた涙』(文春文庫)、『祈りの現場』(サンガ)、『「鬼畜」の家』(新潮社)、『43回の殺意――川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(双葉社)、『原爆 広島を復興させた人びと』(集英社)など著書多数。