『利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割』(17) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

平和憲法の理念が甦る時が来た

日本人全体にとって大事なのは、平和憲法の理念が現実に活きる時が再び到来したということだ。2015年の安全保障関連法の「成立」時に、政府は北朝鮮での有事に備えて制定すると説明し、大部分の憲法学者が違憲とした法律を強引に「成立」させた。さらに憲法第9条の改定も、同じく北朝鮮をはじめとする日本周辺の緊張した国際状況を根拠に主張されている。要は、こういった政治的潮流が生じている最大の国際的要因が、北朝鮮問題なのだ。

米朝会談によってこの全ての潮流が覆り、逆転していく可能性が生じた。すでに米韓合同軍事演習は中止された。もし対話が進展して朝鮮戦争が法的にも終結し、非核化が達成されれば、もはや朝鮮半島の戦争を念頭に軍事的準備を行う理由がなくなる。

北朝鮮の脅威が最大の理由である以上、安保法は今後、廃止されて当然だ。その他のさまざまな防衛力強化のための法律や政策も見直して、もとの純然たる専守防衛の体制に戻るべきだろう。

現政権は圧力一辺倒の政策に固執していたため、関係諸国の中で孤立して「蚊帳(かや)の外」に置かれてしまった。最後にトランプ大統領が「最大限の圧力という言葉はもう使いたくない」とまで言うに及んで、米朝会談直前になって方針を転換せざるを得なくなったのだ。平和国家の理念に鑑みれば、これは国辱ものと言わざるを得ないだろう。

よって日本はこれまでの姿勢を猛省し、平和憲法の理念の尊さを再確認して、外交方針を全面的に転換し、関係諸国の対話を促進して東アジアにおける持続的な平和の達成に全力を尽くすべきである。要は、平和憲法の理念が甦(よみがえ)るべき時を迎えたのだ。この理念に基づいて、必要な時には経済的支援を行うこともまた必要だろう。

喜び合える日まで宗教的な「祈りと行動」を

このような展開は、平和を希求するさまざまな宗教の願いとも合致する。たとえば仏教は平和志向的であるがゆえに、多くの仏教徒は平和憲法の理念を高く評価し、それが貫かれることを望んできた。今こそ、その平和への願いと憲法の理念が再び現実の政治に活かされるべき時だ。

もちろん米朝会談によって安心するわけにはいかない。非核化に向けての具体的な交渉は米朝間でもようやく本格的に始まったところである。これが失敗すれば、戦争の危険が再燃しかねない。

従って会談後の声明にもあるように、一人ひとりが「祈りと対話と行動」を続けることはとても大事だ。戦争の危機が最終的に去って揺るぎない平和の達成を東アジアの人々が共に寿(ことほ)ぎ合う日が来るまで、ささやかでも有意義な努力を倦(う)まずたゆまず続けていきたいものだ。

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プロフィル

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など