【豊島子どもWAKUWAKUネットワーク理事長・栗林知絵子さん】広がる子ども食堂の取り組み 地縁の中で一人ひとりの成長を見守る社会へ
厚生労働省が今年発表した2016年国民生活基礎調査によると、日本では子供の7人に1人が貧困状態にある。特に、ひとり親世帯では約半数がその状態だ。こうした中、栄養のある食事を子供に提供する「子ども食堂」が全国に広がっている。NPO法人「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」(以下、WAKUWAKU)では、東京・豊島区内4カ所で子ども食堂を開き、彼らの居場所づくりに取り組む。栗林知絵子理事長に、貧困の実態と子ども食堂の役割について聞いた。
見えにくい日本の貧困
――子供の貧困問題に取り組み始めたきっかけは?
私は元々「プレーパーク」という、子供たちが思い切り外遊びのできる場の運営に携わっていました。その中で、「昨日から何も食べていない」と言う子や、豊島区に引っ越してくる前は「車の中で暮らしていた」と話す子に出会ったのです。それほど深く気に留めずにいましたが、2008年にテレビで、家や仕事を失った大人が日比谷公園で新年を迎える「年越し派遣村」の映像を見て、この国に貧困があることを知りました。プレーパークの子供たちと映像の中の大人たちは、つながっているのではと思い始めたのです。
しばらくして、プレーパークに来ていた中学3年生の男の子が、「高校に行けないかもしれない」と言ってきました。それで、お節介にも自宅で彼の学習支援を始めたのです。彼と話すうちに、彼の家は母子家庭で、小学3年生の頃に母親が夜も働き始め、彼と兄弟は、それぞれに毎日渡される500円で一日の食事を賄ってきたことや、算数の勉強につまずき、学力が小3で止まっていたことを知りました。
受験のために、大学生のボランティアも巻き込んで彼の勉強を毎日見るようになりました。ある日、「うちでみんなでご飯を食べよう」と提案したところ、彼は、「家族みんなでご飯を食べること自体が気持ち悪い」と言ったんです。ショックでした。一人で食べるのが当たり前で、家族で食卓を囲んだ経験のない彼にとって、それは「気持ち悪い」ことだったのです。
経済的な苦しさは、子供たちからさまざまな経験さえも奪ってしまいます。生活に困っている子供やお母さんがいるのに、外からは見えにくいというのが、日本の貧困だと思いました。
そうした環境は子供たちの責任ではありません。親にできないことを、子供がなるべく小さいうちから地域でサポートできれば、子供たちの成長を手助けできるかもしれない。そういう思いで地域に開かれた学習支援や、団らんの場としての子ども食堂を始めました。