【豊島子どもWAKUWAKUネットワーク理事長・栗林知絵子さん】広がる子ども食堂の取り組み 地縁の中で一人ひとりの成長を見守る社会へ

「よく来たね」「いい子ね」と言ってもらえる喜び

――子ども食堂とは、どのような場所ですか?

私はよく、「子供が一人でも安心して来られる食堂」とお伝えしています。寄付された食材を使い、地域の主婦たちがボランティアでご飯を作っています。WAKUWAKUでは、個人宅やお寺をお借りして東京の豊島区の4カ所で子ども食堂を開いていて、それぞれ月に2回、子供は無料または100円で、大人も数百円で利用することができます。

子供たちが「ただいま!」と元気にやって来て、喜んでご飯を食べてくれる、地域のつながりの場です。子ども食堂は、作り手にも元気をもたらし、主婦の皆さんにとっても、新たな居場所になっているようです。

また、主婦だけでなく、例えば、ボランティアとして高齢の方が食堂にいてくれていますが、いてくださるだけでいいのです。子供たちの中には、家庭の事情で祖父母の存在を知らない子がいるからです。

「町」は、高齢の方、障害のある方、外国籍の子供と、いろいろな人がいて成り立っています。さまざまな人との交流の中でこそ、お互いを尊重できる関係ができていきます。もしも自分の暮らすコミュニティーに高齢者がいなければ、その子供は高齢者との触れ合い方を知らないまま大人になります。

また、愛情を受けてこそ人は育つものです。人から大事にされた経験がなければ、自分も人を大事にできるようにはならないのではないでしょうか。食堂で地域のおじいちゃんやおばあちゃんから「よく来たね」「いい子ね」と声を掛けてもらうことが、子供たちの成長にとって大きな意味のあることだと思います。人格が形成される時期に、人を信頼する能力を育める土壌を、地域でつくっていくことが必要です。

――子ども食堂に来る子供たちに目に見える変化はありますか?

昨年オープンした池袋本町の「ほんちょこ食堂」。子供たちとボランティアが共に食卓を囲み、団らんのひとときを過ごす(写真提供=豊島子どもWAKUWAKUネットワーク)

ここに来れば急激に暮らしが良くなるというものではありません。しかし、来るたびに大人から大事にされ、食堂が子供にとっての居場所になると、新たに子供たちのお母さんとのつながりができていきます。お母さんたちが胸の内を話せる場になるのです。皆でその困り事を聞き、一緒に解決していく中で、お母さん自身が穏やかになってきます。その変化は、自然と子供に良い影響をもたらしていきますね。

お母さんの困り事の内容はさまざまですが、一つはお金に関することです。小学生の子供のいる家庭では絵の具やお習字セット、高校生ですと電子辞書など、節目の時期に必要になる学用品は経済的に厳しい家庭の家計を圧迫します。こうした学用品はお子さんが独り立ちした家庭に眠っていることが多いので、WAKUWAKUではメーリングリストで寄付を呼び掛け、困っているお母さんたちに送るのです。

――そうした活動は、お母さんたちの励みになりますね

皆さん、とてもほっとされます。特に、ひとり親家庭の母親は、追い詰められるほど周囲に助けを求める精神状態ではなくなり、一人でかたくなに頑張ってしまう傾向があるようです。そうした方が、「こんなこと誰にも相談できない」と胸に押しとどめていた悩みを誰かに相談できる、また、悩みに対して周囲の人が手を差し伸べてくれる――仮に経済的な状況は変わらなくても、相談できる人や頼れる人がいると、気持ちが楽になるのだと思います。
私には一人暮らしをしている大学生の息子がいるのですが、心配した私の母がよく息子に食べ物を送るんですね。私たちが地域で行っていることは、これと同じです。血縁ではありませんが、同じ地域に住んでいる地縁というつながりの中で、食品や必需品を融通し合うことで関係が強まり、だんだんといろいろなことを話せる間柄になっていくのだと実感しています。

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