笑トレで元気に――健康と幸せを呼ぶ“心の筋トレ”(14)最終回 文・日本笑いヨガ協会代表 高田佳子

イラスト/中村晃子

『100年時代の“生き方&逝き方”』

日本人の死亡率をご存じですか? このクイズ、誰でも答えを知っています。日本人だけではなく、地球上の全ての人類の死亡率は100%。今日生まれた赤ちゃんでも、いつかは寿命が尽きるのです。

確かに、日本は世界的に見て長寿国です。2023年現在、100歳以上の人が9万2139人で53年連続して増えています。90歳までならば、男性の4人に1人、女性の2人に1人は生きているのです。

いつかお別れの時が来ると分かっていても、そんなに長生きしなくていいと自分で思っていても、やっぱり明日逝くのは嫌なものです。それでは明後日ならいいのかというと、やはり「もうちょっとは生きていたい」と思う人がほとんどではないでしょうか。じゃあ「今年いっぱいは?」「来年の春は?」と考えていくと、やはり与えられた命を、最期まで生き切るのが大切なように思います。そのためには、まず健康! おいしいものをおいしく食べ、行きたい時に行きたいところに行き、いつもごきげんで周りの人と笑い合う人生を選びたいものです。そして、日々を大切にするために、最期のイメージは持っておいた方がいいと思います。

「笑トレ」は、笑う動作だけで運動ができる方法です。この連載でたくさんの体操を紹介してきました。スーパーマン笑い(第2回)や請求書笑い(第8回)、「アーローハハハハハ」のアロハ笑い(第13回)といった一見、笑いとは関係ないものもありました。動作をしながら「ハハハハ」と声を出せば、何でも運動になるのです。これからの季節なら、座ったままでのスキー笑い、餅つき笑い、雪合戦笑いなどの笑トレで体を動かすのもおすすめです。

笑うための筋肉(ゲラゲラ筋)を鍛えるだけで、心拍数が上がり、血液循環が良くなって、栄養と酸素を全身に届けられます。また、血圧・血糖値が下がり、スタミナがつき、認知症の予防にもなります。さらに、笑いが持つストレス解消効果で、食べ過ぎを防ぎ、イライラや不安が減り、心が整います。自律神経が整うことでよく眠れ、便秘や耳鳴りが改善し、快適で穏やかな気持ちで日々を過ごせるようにもなるのです。中には、高所恐怖症が治った人までもいました。心を強くするには、ゲラゲラ筋を動かし、質の良い睡眠と、良い食生活が一番効果的です。

数年前、友人から、親を看取(みと)った話を聞きました。人は生きてきた通りに死んでいくのだそうです。彼女は最初に自身のお父さまを見送りましたが、いつもニコニコ上機嫌だった方で、「ありがとう、ありがとう」と言って旅立ったそうです。また、寡黙だったお義父(とう)さまは、何も言わずに一人で逝き、少々心配性のお義母(かあ)さまは、「息子を頼むよ」と自分の亡き後を気にかけながら亡くなりました。さらに、自身のお母さまの終末期の願いは「笑いたい」でした。戦前から大変な時代を生き抜いた彼女は、いつも前向きで笑えるネタを探していたのでしょう。ただ、病院の中で笑わせようとしても素人には限界があります。この時に笑トレを知っていたら、一緒にもっと笑わせられたのに、と友人は語ってくれました。

彼女の経験を聞いてから、周りを見渡していると、「死に方」は「生き方」なのだと実感できました。自分で死に方を選ぶことはできませんが、周りが笑顔になれる旅立ちを目指したいものです。

私自身は、長寿社会を元気に生き抜き、最期は家族が交互に私の手を握ってくれる中、「おかげさまでいい人生だった、ありがとう」と笑顔で言って事切れて、みんなが「さすが、笑トレの先生だったね!」と大笑いする終焉(しゅうえん)を迎えたいと思います。

今、毎朝10分間SNS(https://www.facebook.com/takadayoshiko.waraiyoga/)を通じてみんなで笑い、ゲラゲラ筋を鍛え、心の筋トレをやっています。この連載は、これで最終回。皆さんよかったら、これからも一緒に笑いませんか。

プロフィル

たかだ・よしこ 兵庫・神戸市生まれ。2009年にインドで笑いヨガを学び、帰国後に日本笑いヨガ協会を設立した。笑いは呼吸であると考え、一生「健康」と「ごきげん」を手に入れられる笑トレや笑いケアを開発し、高齢者のケア現場や企業のストレスケアの分野でも指導・講演活動を行っている。日本応用老年学会理事。著書に『ボケないための笑いヨガ』(春陽堂書店)、『大人の笑トレ』(ゴルフダイジェスト社)など。