笑トレで元気に――健康と幸せを呼ぶ“心の筋トレ”(9) 文・日本笑いヨガ協会代表 高田佳子 (動画あり)
イラスト/中村晃子
『良いこと探し』
前回お伝えしたように、高額な請求書がやってきたとしても、それを見て笑う、人にも見せながら笑う。気持ちが落ち込んだ時には、笑うなんてバカバカしいと思うものですが、気持ちや感情を無理に前向きに切り替えて笑う必要はありません。心はそのまま横に置き、呼吸に「ハハハハ」と声を足す動作をする。すると、脳は「笑っている」と認識し、「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンが分泌され、副交感神経が高まり、リラックスして気分が穏やかになるのです。
また、夜寝る前に、その日あった良かったことを三つ、日記に書くだけで幸福度が上がるというポジティブ心理学の実践方法があります。平凡な毎日を送っていると、探すのが難しいと感じたり、良いことよりも嫌な出来事が多いと思ったりしがちですが、どんな小さなことでもOK。例えば、「朝食のヨーグルトがおいしかった」「電車で席を譲られて恥ずかしかったけど、親切な高校生に出会えてうれしかった」「夜1回しか目覚めなかった」といった日常のささいな出来事の中から良いことを見つけ、一日の終わりに三つ書いてみてください。これで、良いことに注目することができ、小さな喜びに気づきやすくなります。
眠る前に、三つの良いことを日記に書く習慣を続けるだけで、ストレスや不安感が減り、幸福度が上がるという研究結果は、たくさん発表されています。この実践法の日本語名がまだないので、日本ではあまり知られていないかもしれませんが、ストレス解消効果は抜群です。
日本には、この方法と同じく不安感を減少させ、行動を変える方法として、100年以上前から「森田療法」があります。不安はあってもその状態のまま、やるべきことに取り組み、建設的に行動することで、心理的な課題を解決していこうというものです。
これを「生きがい療法」として実践したのが、岡山県倉敷市の開業医・伊丹仁朗先生です。彼はがん患者と共に、欧州のアルプス最高峰モンブラン登頂を目指しました。その目標に向け、みんなで毎月集まって山登りの練習に励み、日々、体力をつける努力を続けました。そして、7人が登山に挑み、3人が登頂を果たしたのです。登頂が目的ではなく、そのプロセスが自然治癒力を高め、免疫機能に良い影響を与えると考えられています。
その伊丹先生から直接聞いた話ですが、彼の「生きがい療法実践会」では、毎月1回集まった際に、人を笑わせる話をしていたそうです。誰でも一つや二つの面白いエピソードは話せますが、毎月となると、話のネタは尽きます。そこでメンバーたちは、会合で話すための面白い話を、日々探すようになるそうです。がんのつらさを感じているより、面白話を探す時間が増えていくことで、生活が変化していったようでした。
自分の好きなこと、心からやりたいと思うことは、限りある人生の中で全てやりきる。人の価値観に振り回される必要はありません。そこで今月の動画では、「操り人形笑い」を紹介します。人に操られずに、自分で自分を操るところがポイントです。
さらに、「生きてるだけで丸もうけ」「死ぬこと以外かすり傷」という言葉があるように、自分が今、生きていることを毎日祝福してほしいとの思いから、お酒を飲む人も飲まない人も、高級ワインを開けて乾杯する「ワインオープナー笑い」も紹介します。ささやかでも、日々の幸せを感じてくださいね。
プロフィル
たかだ・よしこ 兵庫・神戸市生まれ。2009年にインドで笑いヨガを学び、帰国後に日本笑いヨガ協会を設立した。笑いは呼吸であると考え、一生「健康」と「ごきげん」を手に入れられる笑トレや笑いケアを開発し、高齢者のケア現場や企業のストレスケアの分野でも指導・講演活動を行っている。日本応用老年学会理事。著書に『ボケないための笑いヨガ』(春陽堂書店)、『大人の笑トレ』(ゴルフダイジェスト社)など。