【子どもの貧困対策センター 公益財団法人あすのば代表理事・小河光治さん】「相対的貧困」に苦しむ子供たち 「共助」「公助」の両輪で育てる社会に

長引くコロナ禍に加え、物価や光熱費の高騰などが貧困世帯をさらに追い詰めている。そこに暮らす子供は、経済苦で家族の団らんや進学の機会などを奪われているという。こうした「相対的貧困」に陥る日本の子供は7人に1人に上る。貧困に苦しむ子供たちに希望を届けたいと、小河光治さんが代表理事を務める「子どもの貧困対策センター 公益財団法人あすのば」では、「政策提言」「支援団体への中間支援」「子供たちへの直接支援」を事業の柱に活動を展開している。小河さんに、コロナ禍での子供の貧困の現状、問題解決に向けた具体的な支援などを聞いた。

貧困が「見えづらい」社会で子供を守るシステム構築を

――コロナ禍が貧困家庭の子供たちをさらに苦しめています

2009年、厚生労働省から「子どもの貧困率」が14.2%に上ると初公表されました。この結果は社会に大きな衝撃を与え、官民が協力して問題を解決しようと、13年には「子ども貧困対策法」が成立、大綱も策定されました。

しかし、児童扶養手当の増額に関する記載が見送られるなど、思うような成果が上がらずにいました。そこで、関係団体と協力して力強く政策提言ができる団体の必要性を感じ、15年に「あすのば」を設立、翌16年には公益財団法人となり、子供の貧困をなくすための活動を続けています。

子供が貧困に苦しむ背景には、たくさんの要因があります。非正規雇用の拡大、ひとり親世帯の増加、女性の雇用形態の悪化――それに加えて、コロナ禍が貧困世帯の家計をさらに追い詰めています。昨今の物価や光熱費の高騰もあり、子供たちは何重もの苦しみの中を生き抜いている状況です。

それを表すように、「あすのば」が実施する進学、就職を祝う子供を対象にした「入学・新生活応援給付金」に、昨年は約1万8000件の申し込みがありました。受給者からは、「お下がりの体操服を新調できた」「低予算でも手作りしたピザが贅沢(ぜいたく)で、子供たちも満腹になった」などの声が寄せられています。生活の一助になれた喜びを感じる一方、子供たちが想像以上に厳しい生活を送っていることに危機感を覚えます。

現代の貧困は「見えづらい」という特徴があります。その代表例が進学の問題で、小、中学校は普通に通えても、経済的な理由で高校や大学に進むことを諦める子がとても多いです。これは、教育格差による貧困の連鎖を引き起こす要因でもあります。また、衣服の古さがいじめのきっかけになる可能性もあります。貧困家庭の親御さんは、比較的安価な衣料品を買うなどして子供を守っているのです。

生活保護や就学援助を受ける家庭が半数を超す地域がある一方、そうした世帯が1割に満たない場所もあります。こうした状況は互いの理解を妨げて分断を生み、「助けて」と言いづらい風潮や、子供たちの「孤立」という深刻な問題につながっています。

「貧困」という言葉は、「貧しい」「困っている」という二つから成り立ちます。現代は、経済苦だけでなく、孤独や生きづらさといった「困りごと」が子供を苦しめており、令和3年には18歳以下の子供473人が自死してしまいました。子供の居場所づくりや学習支援などの「共助」と、税額控除や児童手当といった「公助」の両輪で支援活動を進めることが大切だと感じています。

――「あすのば」の取り組みを教えてください

「共助」としては、「入学・新生活応援給付金」を通し、「あなたを思っているよ」「一人じゃないよ」というメッセージを子供たちに伝えています。この取り組みは7年前、高校生、大学生が真冬のさなかに全国の街頭で募金を呼びかけるかたちでスタートしました。彼らの純粋な思いに共感した人たちからたくさんのご支援を頂き、現在はカタログ雑誌「通販生活」を発行する企業とも連携し、寄付と応援のコメントを募る記事を掲載するかたちでご協力を頂いています。こうした温かな思いを受け取った子供や保護者も、感謝の言葉を届けてくれています。

また、貧困世帯の小中学生を招待し、「あすのば」のボランティアである高校生や大学生たちと3日間を過ごす「合宿キャンプ」を開催しています。ひとり親世帯の子供は、家計を支える親に甘えられず我慢を強いられています。キャンプを通し、大学生たちに思い切り甘えることは、安心感、充実感につながるかけがえのない体験です。

また、47都道府県で子供たちの支援活動を行う人や団体をつなぐ取り組みも展開しています。大分県では、子ども食堂や学習支援などの運営者が協力し、地元で支援ネットワークを立ち上げました。今後は、自治体とも連携した包括的な支援を進めたいです。

こうした取り組みを通して得たデータを基に、他の支援団体や研究者と共に政策提言を行い「公助」につなげています。3年前に「ひとり親世帯臨時特別給付金」が実施されましたが、両親のいる低所得世帯は対象外でした。この背景には、ワーキングプア(働く貧困層)への不理解があり、怠けている、自己責任といった冷たい言葉も聞かれました。

しかし、日本では労働者の約4割が非正規雇用です。コロナ禍で失業した人も多く、両親がいても困窮する子供がいる現状を、超党派の議員で構成される「子どもの貧困対策推進議員連盟」などを通して訴えました。その後、国会で審議がなされ、一昨年に18歳以下の子供1人に10万円相当を給付する「子育て世帯への臨時特別給付金」が実施されたのは大きな成果です。

両給付金の特徴は、児童扶養手当、児童手当の受給世帯が申請不要な点です。幅広く、手厚く支援できる上、公的支援を受ける人への中傷が生じず、受給者が後ろめたさを感じずに支援を受けられました。給付金は一時的なものですが、子供が貧困に陥らない社会システムを作るまでには時間を要しますので、状況に応じて続けることが大事だと感じています。

【次ページ:「あなたのことが大切だ」と心からのメッセージ伝えたい】