【認定NPO法人 難民を助ける会理事長・堀江良彰さん】侵攻から1年――世界に目を向け、興味・関心を持ち続けて

昨年2月24日にロシアがウクライナに軍事侵攻し、1年が経つ。これまでに、ウクライナ国内の市民7000人以上(国連人権高等弁務官事務所、今年2月13日発表)が犠牲になった。現在も戦闘が続く国内では、600万人(国連難民高等弁務官事務所、1月現在)が避難生活を送り、800万人が避難民として欧州連合(EU)に逃れた。ウクライナ、モルドバ、日本などで避難民の支援を行う認定NPO法人難民を助ける会(AAR Japan)の堀江良彰理事長に、現在の避難民の状況や、日本人ができる支援について聞いた。

予想だにしない長期戦 家族が分断され不安増

――現在のウクライナ国内の状況を教えてください

現在、ウクライナでは、気温が氷点下にまで下がる中、ロシアによってインフラが破壊され、たびたび停電が発生し、人々は寒く、暗い日々を送っています。侵攻から1年が経っても、東部や南部では戦闘が続き、首都キーウ(キエフ)にもミサイルが飛んでくるので、街に警報が鳴り響き、そのたびに人々は地下などに逃げ込んでいます。国内に残る人々の中には、長引く戦闘によって経済的に厳しい生活を送る人も少なくありません。

AAR Japanでは、ウクライナ国内での支援として、発電機やソーラーパネルなど越冬に必要な物資の支援、専門家と協力しての地雷除去、緊急時に手薄になりがちな障害者への支援を実施しています。

さらに、ウクライナ西部には、戦闘が続く東部や、戦闘の影響を受ける中部の住民が避難してくるため、避難民を受け入れている修道院を支援し、食料や医薬品、日用品、衣類などをポーランドから輸送しています。

堀江理事長がウクライナを訪れた際に、修道院に臨時で設けられた幼稚園で子供と遊んでいる様子 ©難民を助ける会(AAR Japan)

私は昨年7月にこの修道院を訪れ、避難民と触れ合いました。避難してきていたのはほとんどが女性と子供です。戦力となる成人男性は移動が難しく、家族が分断されていました。他国の難民キャンプを何度も訪れていますが、家族でそろって避難していることが多く、大変な時も皆で協力して乗り越えようと家族一丸となっていました。ウクライナの避難民は一家を支える男性がいない状況で、心理的な影響がとても大きいと感じました。

隣国のモルドバにも避難民がいるので、そこでも支援活動を行っています。最初は食料支援を中心に行っていましたが、大切な人を亡くしたり、怖い経験をしたりとトラウマを抱える人もいるので、子供や女性が安心できる場や遊び場づくりに取り組んでいます。

――日本にもウクライナ避難民が2000人以上入国していると聞きます

そうですね。AAR Japanでは、日本国内でも支援活動を展開しています。昨年5月から半年間ほどは、一時金の支援を。先月末からは生活相談窓口を設けて、日常生活や就学、金銭的問題などの困り事を聞き、専門機関とつなげる活動を始めました。

支援の際には、来日した理由や現在の状況などの話を聞きます。皆さん、口をそろえて言うのが、「こんなに長くいると思っていなかった」と。当初は数カ月を想定していて、とりあえず、安全な場所に行きたいという考えで渡航したので、先のことまでは考えていないことがほとんどです。いずれは国に戻りたいと皆さん思っていますが、避難生活が長期化すれば、就労や就学の必要性が出てきます。すると、言語の壁が問題になる。英語ができる人とできない人がいますし、日本語が必要な場面も増えてきます。日本では、衣食住に関して、保証人や政府によって確保されていますが、日本語の習得に関するサポートはこれからの課題です。

避難先に日本が選ばれる理由は、もともと日本に良いイメージを持つ人が多いことがあります。漫画や文化が好きな人や、経済的に豊かで、治安が落ち着いていることを魅力に感じた人、日本政府から渡航支援が出ていたこともあり、「日本」という言葉に憧れてきた人などもいます。ウクライナ周辺諸国に比べると、避難民の数は圧倒的に少ないですが、これらの理由により、距離に関係なく、ポーランドやロシアを経由して日本に来られるのです。

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