TKWO――音楽とともにある人生♪ バストロンボーン・佐藤敬一朗さん Vol.2

楽器のリペア職人を目指していた佐藤敬一朗さんは、コンペティションに入賞して奏者の道を志した。Vol.2では、東京佼成ウインドオーケストラに入団するまでのいきさつや奏者として喜びを感じる瞬間を紹介する。また、佐藤さんだけが担う佼成ウインドでの役割があるそうで、そのことについて聞いた。

一本の電話によってつながった佼成ウインドとの縁

――佼成ウインドとの最初の縁は、どんなものだったのですか?

大学4年生の時にかかってきた一本の電話が入団するきっかけでした。当時の楽団員だったトロンボーン奏者の玉木優さんから突然、電話がかかってきて、「明日から3週間、予定は空いているかな? ちなみに、パスポートは持っている?」と聞かれました。僕の心の中は、「何、何!? いきなり何の話で電話をくださったんだろう?」とちょっとした混乱状態でした。

よく話を聞いてみると、佼成ウインドの創立50周年を記念したヨーロッパツアーの直前に、当時のバストロンボーン奏者の方が体調を崩されてしまって、代わりを探しているとのことでした。フリーで演奏活動をしている人は、急に3週間もスケジュールを空けることが難しく、学生の僕に白羽の矢が立ったんです。玉木さんとは面識はなく、それまで佼成ウインドのエキストラで入ったこともありませんでしたが、知り合いから僕のことを聞いたそうで、すごい巡り合わせだったなと、今振り返ってもそう思います。それが卒業の半年前、ヨーロッパツアー出発の3日前でした。

――佼成ウインドで実際に演奏されて感じたことは?

ヨーロッパツアーに参加し、その期間、ずっと一緒に佼成ウインドの先輩方と演奏させて頂いて、吹奏楽で驚くほど美しい響きを奏でられることを知りました。初めての体験でした。音楽でこんなにも喜びを感じられるものなのか、こんなきれいな響きの中で吹くことができたら、すごく幸せだろうなと思い、絶対に佼成ウインドに入りたいと思うようになっていました。

――音楽に喜びを感じるのはどんな時ですか

二つあります。一つ目は、和音の中で、最低音の根音(ルート音)を自分が良い音で吹いて、ハーモニーの核となり、土台として演奏全体を支えていることにとても喜びを感じます。ですから、あまりメロディーに興味はなく、ソロや目立つパートは積極的にやりたいとは思いません。脚光を浴びたいと全然思わないんです。楽団の素晴らしい音がホールに響いている間、自分は根音を担当し、ロングトーン(音を吹き伸ばすこと)を奏でている時がプレイヤーとして最も幸せな瞬間です。

二つ目は、心が震えるほどの瞬間に出会えた時です。こういう時は、本当に音楽をやっていてよかったなと思います。一人ひとりの音と音楽が共鳴し合って、大きなエネルギーになっていく。その中に自分も加わっていると、なんとも言えない喜びで満たされるんです。

演奏者も、指揮者も、「最高の演奏」というのは誰もが心がけているのですが、そういう瞬間ばかりではありません。ですから、出会えるととても幸せな気持ちになります。

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