TKWO――音楽とともにある人生♪ コントラバス・前田芳彰さん Vol.3

東京フィルハーモニー交響楽団(東フィル)でプロの演奏家として歩み出した前田芳彰さんは、オーストリア・ウィーンへの留学を経て、フリーでの活動を決意した。最終回となる今回は、東京佼成ウインドオーケストラ(TKWO)との出合い、そして、自らの演奏に懸ける思いについて聞いた。

真摯に音楽と向き合う

――東京佼成ウインドオーケストラ(TKWO)に入団するきっかけは?

東フィルを退団してフリーで活動していた時、当時佼成ウインドの副コンサートマスターを務めていたオーボエ奏者の和久井仁君(現・NHK交響楽団)から、「欠員が出たので、エキストラで出演してほしい」と声を掛けられました。それが、佼成ウインドと出合うきっかけです。2000年のことでした。翌年にはオーディションを受けて合格し、正式に団員として入団しました。

佼成ウインドの演奏に加わった時、一番に感じたのは、音楽に対する真面目さです。パートそれぞれの人数が比較的少ない吹奏楽団は、一人でもいい加減なことをすると、まともな演奏になりません。団員それぞれが責任感を強く持って取り組む姿勢を、佼成ウインドが奏でる音を聴いた時に感じました。それは自分が求めてきた感覚とすごく合っていて、自然と楽団に溶け込むことができたと思います。また、印象に残っていることとして、数回だけですが、フレデリック・フェネルさん(TKWO桂冠指揮者)の指揮で演奏をしたことが思い出されます。その時は、彼の情熱に共鳴し、最高の音楽をつくり上げようというプライドのようなものが、いつも以上に楽団全体から醸し出され、とてもエネルギッシュな演奏をお届けすることができたと思います。その空気に触れられたことは、幸運でした。

――前田さんは演奏の際、どのようなことを心がけていますか?

演奏家とは、楽譜に込めた作曲者の意図を理解し、音に出して表現することを求められた芸術家だと思っています。ですから、僕は、楽譜通りに“正しく”演奏することを心がけています。ただ、ここで言う「正しく」とは、正解・不正解のように「これでないと駄目だ」というような狭義のものではありません。ドイツでは相づちを打つ際に、「うんうん、本当にそうだよね」とか、「まったく、その通りだよね」といった意味の「ganz genau(ガンツ・ゲナウ)」という言葉をよく使うのですが、私が言う「正しく」というのも、そのように、もっと大らかな、穏やかな意味の「正しさ」を指します。

ほとんどの演奏者は、こうした「正しく演奏する」ことを心がけているのではないでしょうか。しかし、面白いことに、誰もが同じように正しく表現しようとしているにもかかわらず、演奏は人によって微妙に異なります。つまり、「正しく」という姿勢は同じでも、曲の理解や解釈がそれぞれ違うのでしょう。そこに、演奏者の個性が表れるわけで、音楽の魅力の一つだと思います。

楽団は、そうした個性を持った人たちの集まりです。楽団にも、奏者と同じように、「正しい」演奏が求められますから、個性を持ったそれぞれの奏者が全体のハーモニーのために調和していく――それがとても重要になります。コントラバスのソロ演奏であれば、僕の解釈した「正しく」を聴き手に対してストレートに伝えることができますが、楽団では、そうはいきませんからね。

指揮者の曲の理解があって、そしてパートごとにもそれがあって、そこから楽団全体としての方向性をつかんでいかなければなりません。実際には、団員同士で語り合うというよりも、リハーサルを通じてお互いの音を聴き、感じ取って合わせていくことが多いですね。演奏会場によっても、聴衆への聞こえ方は違いますから、そうしたことも考慮し、「正しい」演奏をつくり上げていく必要があります。そうしたことを含めて、楽団からコントラバスに求められる演奏を僕は追求しています。

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