沖縄県うるま市の中高生がつくる奇跡の舞台~肝高の阿麻和利~ 演出家・平田大一氏
地域に根付く物語に光を当て、舞台を通して中高生の育成を図る。それが私の仕事です。沖縄県うるま市で「肝高の阿麻和利(きむたかのあまわり)」という現代版組踊(くみおどり)を地域の中高生と共に18年間演じています。
この舞台は、旧勝連町の当時の教育長の発案で始まりました。当時、教育長からは三つの課題を出されました。地域の中学生が出演者であること、地域の芸能を取り入れること、そして、首里城主に反抗して悪のレッテルを貼られていた阿麻和利を英雄にすることです。勝連城が世界遺産に登録される時で、城主である阿麻和利を英雄にしたかったのだと思います。
勝連の子供たちは、都市の那覇に憧れ、「私たちはどうせ田舎者」という意識が強かったのですが、まずは町内の中学校を回り、役者を集めました。思った以上の好反応、手応えを感じました。しかし、オリエンテーション初日、来たのはたったの7人でした……。
子供たちを盛り上げるのも、やる気を削(そ)ぐのも原因は大人の側にありました。学校は、「19時以降は管轄時間外だから教育長に取り仕切ってほしい」と丸投げ。教育委員会も「引っ込み思案な子供に舞台などできるわけがない」「300年前に作られた伝統芸能に子供たちは興味を持たない」と、子供を信用していなかったのです。
来てくれた7人の中には親に無理やり送り出されたという子も多く、最初から稽古はつけませんでした。「おなかがすいた」と誰かが言えば、食事を振る舞い、レクリエーションをやりました。場が和んだ時、子供たちから「稽古はしないの?」と言われました。何の役がやりたいかと聞くと、全員が主人公の阿麻和利を希望しました。シャイで引っ込み思案なのではなかったのかと思いましたが、主役を子供たちに演じてもらい、ほかの23役は全て私がやりました。
週2回、2時間の練習では毎回食事が30分、レクリエーションが1時間、台本稽古が25分です。主は中学1~2年生、難しい歴史の劇ですから漢字の読み仮名を振るだけであっという間に稽古の時間は過ぎていきました。
毎回、最後の5分間に私は命を懸けました。当時、別の舞台で南東詩人という名前で独り芝居を演じていたので、笛、三線(サンシン)、太鼓に踊り、ものまねを披露しました。最後に一瞬盛り上げて、「どうだった?」と聞くと、「良かった、次も来る!」と言ってくれる。それで、とどめに一言、「友達1人連れてきて」と声を掛ける。すると、次、そのまた次と人は増え、初公演までの50回の稽古で出演者は150人になりました。