【詳報】第35回庭野平和賞贈呈式 アディアン財団の共生教育による功績たたえ
公益財団法人・庭野平和財団による「第35回庭野平和賞」贈呈式が5月9日、東京・港区の国際文化会館で行われた。受賞団体は、レバノンの国際NGO「アディアン財団」。教育活動を通じ、宗教対立を超えた和解と、多様性を豊かさとして享受する市民社会の構築に取り組んできた。贈呈式では、宗教者や識者200人が見守る中、庭野日鑛名誉会長から、アディアン財団の創設メンバーであるファディ・ダウ理事長(46)とナイラ・タバラ副理事長(46)に賞状などが手渡された。
レバノンには18の宗派が存在し、民族や宗教のコミュニティーが混じり合うことが少ない「モザイク国家」として知られる。1975年には、パレスチナ解放機構(PLO)を含むイスラームと、キリスト教の勢力の対立をきっかけに内戦が発生。イスラエルやシリアの介入によって泥沼化し、内戦は90年まで続いた。
アディアン財団の設立は2006年。イスラーム・シーア派武装組織「ヒズボラ」と隣国イスラエルとの間で紛争が起こり、イスラエル軍による侵攻を受けた年になる。創設者はマロン典礼カトリック教会の神父で、大学教授でもあるダウ現理事長、イスラーム学を専門とする大学講師でムスリムのタバラ副理事長ら、異なる宗教を持つ5人だ。
「アディアン」とはアラビア語で、「複数の宗教」を意味する。そこには、宗教が対立や紛争の“道具”として利用されている現状に対し、さまざまな宗教(複数の宗教)の根底には、平和と共生といった共通の願いがあり、こうした“共通善”を通して、「全ての宗教は団結できる」という強いメッセージが込められている。
その活動は、人々の尊厳を尊重し、平和のために精神的な連帯を築くことが宗教の役割との考えに基づくものだ。現在は、アディアン財団が開発した、あらゆる人々の権利を守る「非排他的市民権(インクルーシブ・シチズンシップ)」の考えに基づき、共生教育を推進。アラブを中心に13カ国でプログラムを実施している。
さらに、若者の社会参画への啓発や政策提言、宗教対話など多様性を豊かさとして全ての人の権利が保障される社会に向けたさまざまなプログラムを開発している。2013年には、シリア危機への対応として、シリアとレバノンの両国に暮らす、シリア人の子供を対象とした「回復と和解構築プロジェクト」(BRR)を始動。暴力の連鎖を断ち切るため、加えて、教育者へのトレーニングを行った。
新たな試みとしては昨年、インターネット上にウェブサイト「タードゥディア」を開設。諸宗教に関するニュースや歴史、教義など、多様性を尊重する文化を育むためのコンテンツを広く発信し、ユーザー数は2300万人を突破している。
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