第35回庭野平和賞受賞記念講演 アディアン財団のファディ・ダウ理事長 

アディアン財団のファディ・ダウ理事長

5月10日に国際文化会館で行われた第35回庭野平和賞贈呈式の席上、記念講演に立ったアディアン財団のファディ・ダウ理事長は「平和なくして、宗教はない」と語り掛け、宗教者、信仰者が共に手を携えて、全て人の尊厳を尊重する世界の実現を訴えた。全文(仮訳)を紹介する。

記念講演

聴衆の皆さま、兄弟姉妹の皆さま

アディアン財団とそのコミュニティーを代表して第35回庭野平和賞を受賞するにあたって、皆さまの前にこうして立っておりますと、私たちが霊的な交流を通してグローバルに結ばれていると強く意識します。平和は分割できるものではなく、平和は一つです。私たちの分断された生活や人間性を統合する道は平和しかありません。

私たちは皆、実に、平和という人類家族の目標に向かって、同じ旅路を歩む仲間であります。それゆえ、私は同僚と共に、レバノンという小さな国から、傷ついた中東という遠方から日本にまいりました。私たちの間に、兄弟の関係と連帯を見いだしてくださったことにお礼を申し上げます。

従って私たちは、名誉ある庭野平和賞の数々の素晴らしい受賞者のリストに、単に名前が加えられるだけでなく、庭野平和財団が認めた平和構築者の美しい地球家族に参加する新しい兄弟姉妹であると認識しております。一人ひとりは、異なる状況下で平和のために働いていますが、全体として、唯一無二の人類に奉仕し、その魂に栄養を補給し、共通の未来を築こうとしています。

庭野平和財団と庭野平和賞委員会の皆さまに対し、また、アディアン財団に信頼を寄せて頂いたこと、アディアン財団の諸宗教協力を通じた世界平和への使命と活動を認めてくださったことに対し、私は連帯の意識を持って感謝申し上げます。今回の受賞を大変光栄に存じます。ネルソン・マンデラ氏が、「人は賞を受賞したいと望んで自由の闘士になるのではない」と語ったように、どのような困難や危険に遭おうとも、平和と一致のための活動は私たちの義務であり、人間性の根源に関わることであると認識しています。全ての人の心から人間性の灯が消えることがないように、また、心と心の交わりが平和という日の光をもたらすように、私たちは細かな事もおろそかにすることなく、自らの使命と責任をしっかり果たしてまいります。

在家仏教教団である立正佼成会の創立者であり、初代会長である庭野日敬師の事績に触れました。私も、「平和は単に国々の間に争いがないだけではなく、人々の内面において動的な調和があること、そして社会や国家、世界においても同様である」と信じるものです。平和は、専門家だけの活動分野ではありません。平和は全ての人、とりわけ全ての信仰者の社会的責任です。『多様性が一致をもたらす』というスローガンを掲げるアディアン財団にとって、平和は私たちの人生の旅路です。

このスローガンは、多様性を認め、多様性を可能とすることによってこそ、真に持続できる一致を築き、人の尊厳を尊重することができるということを表しており、財団創設の精神そのものです。私たちは、平和の旅路を支える三つの基本的価値は、「多様性」「連帯」「人間の尊厳」であると考えています。しかし、残念ながら、平和へ至る道は、平和的ではありません。むしろ、これらの価値から逸脱した状況に直面する、また、病に侵された人間性を回復させるといった奮闘の日々の連続です。「多様性」「連帯」「人間の尊厳」に関し、三つの課題について述べたいと思います。