利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(11) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

画・国井 節

初詣における宗教性

新年を迎えて、あなたは神社仏閣に初詣に行っただろうか。その際に宗教を意識しただろうか。

日本人の多くは、初詣には神社に参拝し、法事は寺院で行うというように、当たり前のこととして二つの宗教に関わって生きている。ユダヤ教やキリスト教、イスラームのような一神教の世界から見ると、これは不思議なことだ。一つの宗教を真剣に信じる人は、他の宗教施設で祈ったり、宗教的行為をしたりすべきではないと考えられているからだ。

信仰への真摯(しんし)さという点で一神教には長所があるが、特に公共的な問題においては現代では難点がある。前回に述べたように、昨年の総選挙でも現れたように、政治には倫理的・精神的要素が大きく影響するから、民主主義の質を向上させるためには、その基礎に宗教的・倫理的精神が必要である。

アメリカ政治などの基底に存在した宗教的次元を、「市民宗教」と呼ぶ(第7回参照)。ところが、特定の宗教が政治と結びつくことによって他の信仰を抑圧する危険が現れる。一つの宗教だけを信じる人が多いと、この問題はますます大きくなる。だから今日の世界では政教分離が定められている。この結果、政治の基礎に精神性を置くことは困難になってしまっている。

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