三句の法門から学ぶ 自分を磨き、幸せになるための心がけ 精神科医・名越康文氏
縁あって、私は仏教、とりわけ真言宗について学んでいます。その中で、約1500年前にまとめられ、大乗仏教の中心思想が記されている『大乗起信論』という論書に出合いました。大乗起信論には、それぞれの仕事を仏への道と心得て一生懸命にやれば、菩薩や如来になることができる、悟ることができると、高らかに宣言されています。
これは当時としては、とても画期的なことでした。というのも、この頃の社会では、悟りの境地に至るには出家して修行することが不可欠だと考えられていました。それ以外は、日常生活の中でお坊さまを敬い、衣服や食物を寄進するなどしてようやく、わずかばかりの功徳を頂けるという認識が一般的だったからです。だから、一般の人々にとって、これほど有り難いことはなかったでしょう。
この『大乗起信論』を分かりやすく解説したものが『菩提心論』という論書で、ここには、「三句の法門」という、仏、如来に至るために大切な三種の教えが説かれています。これを日々追求して生きれば、間違いのない人生を送ることができるというのです。
まず挙げられているのは「発心(菩提心)」です。これは、自分が菩薩として仏道を進もうと決心することを指します。菩薩は、自己の悟りだけを求めて修行しているわけではありません。「利他」の精神が伴います。これは、人の苦しみを抜くことを喜びとして生き、その中で自らの心を成長させて、最後には仏の境地に至るということです。