三句の法門から学ぶ 自分を磨き、幸せになるための心がけ 精神科医・名越康文氏

高いところから相手にものを言うのではなく、相手の立場に下りて、うまく波長を合わせて、聴く。そうして落ち着いた時、相手がおのずと「私こそ言い過ぎたかもしれんなぁ」と自戒することもあるでしょう。これに対して、「ああ、そう思えるあんたは偉いなぁ」「許してあげたんやなぁ」と相手を包み込む。このように、他人の苦しみを抜く。これが方便です。なかなか難しいのですが、カウンセラーの方々は、この「方便」を一生学び続けます。相手に対して真正面から説教をするのでは、カウンセラーとはいえません。目の前の人が少しでも楽な気持ちになるために、何か方法がないか、といつも考えることは、相手の苦を抜く心がけに通じているのだと私は考えます。

仏さまはこの宇宙をうまくつくられていて、こうすれば完璧といえるような方便の法則は、どうやら存在しないようです。だからこそ、私たちは生きている限り、方便を磨き続けなければなりません。その磨き続ける姿勢こそが幸せになるコツなのではないでしょうか。この三つの教えを大事にして一日一日を生きていけば、人生の最期、「自分もそれなりに頑張ってきた」と、満足して、来世に旅立つことができるのだと思います。

(9月23日、「平成29年次議員交流会」最終回で行われた講演『自分を支える心の技法――仏教との出会いを通して』から)

プロフィル

なこし・やすふみ 1960年、奈良県生まれ。精神科医。相愛大学、高野山大学客員教授。専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業。テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など幅広い分野で活躍する。著書に『Solo Time 「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』(夜間飛行)、『もうふりまわされない! 怒り・イライラ』(日本図書センター)など多数。