ミンダナオに吹く風(10) ミンダナオに関心を抱く日本の若者たち 写真・文 松居友(ミンダナオ子ども図書館代表)
ミンダナオに関心を抱く日本の若者たち
2年ほど前から、妻のエープリルリンと、現在中2の長女、小6の次女と一緒に日本に滞在しつつ、ミンダナオに通う生活を送っている。
きっかけは、年老いた両親から、「とにかくそばに居てくれないか」と強く言われたことだった。加えて、子どもたちの寮がある、ミンダナオ子ども図書館(MCL)の将来を含めて総合的に考えてのことでもある。現地法人の代表でもある妻と、80名ほどの孤児の子どもたちを兄弟姉妹同然に、ひとつの家族として一緒に育ってきた娘たちにとっても、日本での生活体験と日本語の習得が、将来、MCLを継続的に発展させていくためにも大事だと思われたからだ。
それともう一つ。私の活動がテレビ東京の『世界 ナゼそこに?日本人』で「マノボ族の首長になった、日本人」といった副題で放映されたり、池上彰氏の番組でパックンが現地を訪れたりして、日本の方々に認知され、とりわけ若者たちが、ミンダナオ子ども図書館を訪れたいと言ってくれるようになったからだ。
日本に滞在して見る限り、日本の若者たちも純粋で、とりわけ「ゆとり世代」の若者たちは、父親になっても赤ちゃんを抱っこしながら家族で歩いていたりしていて、人間的な心を失っていない。しかし、青少年を取り巻く、社会的、経済的環境は厳しいと感じる。
ミンダナオ子ども図書館を訪れた若者たちは、子どもたちに囲まれ、手をつながれて、一緒に遊んだり歌ったり踊ったりすると、心底感動した様子を見せる。生きる力が回復するのだろう。お別れのときには、ほとんどの若者が泣き出す。彼らと夜に町に出かけて、屋台で焼き鳥を食べながら話を聞くと、日本での生活の心的な厳しさ、心の壁をつくって生きなければならない、孤独やストレスの激しさが伝わってきた。
ミンダナオの子どもたちは、戦争や貧困によって、家庭が崩壊して孤児になるなど、多くの子どもたちが、小学校すら卒業できないし、病気になっても薬も買えないといった、多くの問題を抱えている。けれど、なぜか明るさを失わず、引きこもりや自殺もほとんどなく、生きる力に満ちている。フィリピンの自殺率は、アジアでも最低レベルだ。それに比べると、日本の青少年の自殺率は、専門家の話によると、事故死に分類されているものも加えると、世界でも最高のレベルだという。
もちろん、日本にも良さがあって、銃の個人所有を許さないが故に、銃による他殺は少なく、第二次世界大戦の過ち以後は、戦争に加担することも無く、安全で平和な社会であることは誇れるのだけれど。双方の良さと問題点を考えながら、これから現地の活動とともに、ミンダナオと日本の子どもたちの未来について考えていってみたい。
プロフィル
まつい・とも 1953年、東京都生まれ。児童文学者。2003年、フィリピン・ミンダナオ島で、NGO「ミンダナオ子ども図書館」(MCL)を設立。読み語りの活動を中心に、小学校や保育所建設、医療支援、奨学金の付与などを行っている。第3回自由都市・堺 平和貢献賞「奨励賞」を受賞。近著に『サダムとせかいいち大きなワニ』(今人舎)。ウェブサイト「ミンダナオ子ども図書館日記」を開設し、MCLの活動を紹介している。