地域の非営利団体に協力する「一食地域貢献プロジェクト」(13) NPO法人「心に響く文集・編集局」(福井教会が支援)
心の叫びに耳を傾け、自殺企図者を保護
福井県東尋坊(とうじんぼう)は、高さ25メートルもの断崖が連なる景勝地だが、一方で、“自殺の名所”という顔もある。この地で平成16年から自殺防止活動に取り組むのが、NPO法人「心に響く文集・編集局」だ。
現在、代表を務める茂幸雄(しげゆきお)さん(73)ほか16人(登録ボランティア97人)が、交代で同地のパトロールを行い、同29年9月16日までに、606人の自殺企図者を保護した。また、保護した後の支援を重視し、職場や家庭、行政機関まで同法人のメンバーが同伴して再起につなげる。住む家のない人には、緊急避難所(アパート)を用意し、自立までをサポートする。
保護した後の支援を徹底するのは、茂さんに悔やんでも悔やみきれない出来事があったからだ。同15年、福井県三国警察署(現・坂井西署)の副署長に就いた茂さんは、東尋坊での自殺者が多いことに胸を痛め、自主的に見回りを始めた。ある日、借金苦を抱えた高齢の男女を保護したが、数日後、新潟県内で命を絶ったことを知る。役場に助力を求めたものの、交通費だけ渡されて追い払われた末のことだった。
二人を救えなかった無念さから、定年後、自殺念慮を克服した人から手記を募り「心に響く文集・編集局」として出版した。
多重債務、うつ病、パワーハラスメント、家庭崩壊――。自殺を企図する理由はさまざまでも、心の奥底では「死ぬのは怖い」「やり直せるものなら、やり直したい」という思いがあることを、茂さんは出会いの中から感じている。崖下ばかりのぞき込んでいる人や岩場の陰で長時間動かない人を見つけると、「どうされましたか」「ご飯食べましたか」と声を掛けるが、そのひと言だけで泣き出す人が少なくない。いかに彼らが優しい言葉を待っているかが分かる。
同法人が営む「心に響く おろしもち店」は、活動拠点にもなっている。保護された人はここで大根のおろし餅を供されて、素朴な味をかみしめながら心を落ち着かせる。
「片道切符で東尋坊に来ざるを得なかった人に、もう一度、生きる喜びや安らぎを与えたい。私たちがその杖になれれば」と茂さん。自殺企図者を水際で救済している。