国際会合「平和のためのAI倫理」 宗教者、研究者、AI開発企業が手を携え

国際会合「平和のためのAI倫理」では、AIのリスクと課題、倫理的AIの可能性などが議論された

8月21日、世界宗教者平和会議(WCRP/RfP)日本委員会は、岸田文雄首相と面会し、7月9、10の両日に広島市で開催された国際会合「平和のためのAI倫理:ローマからの呼びかけにコミットする世界の宗教」について報告した。同日本委の杉谷義純会長(天台宗妙法院門跡門主)、戸松義晴理事長(浄土宗心光院住職)、理事を務める庭野光祥次代会長ら4人が東京・千代田区の首相官邸を訪れた。

最先端技術である人工知能(AI)の運用の在り方について、倫理的な責任に基づいた開発と活用を求める「AI倫理のためのローマからの呼びかけ」が、バチカンの教皇庁生命アカデミーから発表されたのは、2020年2月28日のこと。「ローマからの呼びかけ」は、汎用(はんよう)性の高いAI技術の悪用を防ぐためのガイドラインで、AIの設計・開発・導入の際、「透明性」「包摂性」「公平性」など六つの倫理的原則に沿うことを、諸機関、政府、企業が共通認識として持つよう呼びかけている。これまでにマイクロソフト、IBMなどの民間企業に加え、大学や公的機関、国際NGO、宗教組織などが賛同し、これに署名してきた。

今年7月に広島市で開催された国際会合は、賛同の輪をさらに広げるためのもので、同アカデミーをはじめとする主催団体に、WCRP/RfP日本委が名を連ねた。2日間の会合には、日本を含む13カ国から宗教者、研究者、民間企業の代表者150人が参集。AIのリスクと課題、倫理的AIの可能性などが議論されたほか、宗教者からのメッセージとして「広島アピール」が採択され、「ローマからの呼びかけ」への署名式が行われた。

開催地として被爆地の広島が選ばれた理由は、79年前の最先端技術が殺戮(さつりく)兵器として使用され、人類に大きな悲劇をもたらした史上初めての都市であると同時に、平和への永続的な追求を象徴する都市であるため。「広島アピール」では、世界の戦場で既にAI兵器による攻撃が行われている可能性がありながら、倫理的・道徳的な基準がないこと、核兵器の使用がAIの判断に委ねられる危険があることへの憂慮が示された。その上で、「人類の共通善」を核心に置く「ローマからの呼びかけ」は、人間の尊厳を守り、人類と地球の持続可能な発展のために健やかな地球社会の保全を求めるものと言明。「私たちは、あらゆる大量破壊手段、とりわけ核兵器の使用禁止と廃絶を求め、そしてAIが人類の福祉のみに使用され、生命を破壊し傷つけるために使用されることがないよう、世界が誓約することを強く要請する」と結んでいる。

世界の宗教者が研究者、民間企業と手を携えてAI倫理に取り組んでいこうと足並みをそろえた今回の会合。その中のスピーチと囲み取材から、教皇庁立グレゴリアン大学のパオロ・ベナンティ教授、IBMシニア・バイス・プレジデントのダリオ・ギル氏、WCRP/RfP日本委の戸松理事長の発言要旨を紹介する。(文責在編集部)

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