対談・フィリピン残留日本人二世を支えて 石川義久在ダバオ日本国総領事、猪俣典弘PNLSC代表理事
一括救済を含む法の改正と政治決着を
猪俣 残留二世の中には、79年もの間支援を待ち続けるうち、日本政府から見放されたという怒りを持つ人も多いです。ところが、外交官である石川さんが何時間もかけて会いに来て、自分の話に耳を傾けてくれるわけです。これが、どれほど彼らの励ましとなっているか計り知れません。過去の政府の対応を省みるだけでなく、就籍に向けて一歩でも前進しようと努めてくださる姿勢は日系人たちの希望だと感じます。
また、フィリピンの法務省と日本大使館などが話し合い、人道的観点から、昨年7月にフィリピン出国時の罰金が免除となったことも大きな変化です。
石川 そうですね。これまで、国籍回復した残留二世が日本に行く時、フィリピンでの出生から現在までを「不法滞在」と見なされ、多い人で500万円もの罰金を請求されるケースがありました。在フィリピン日本大使館が中心となってフィリピン政府と交渉した結果、これが免除され、昨夏には一人目の残留二世が来日できたのです。また、外務省はPNLSCに委託する形で、全土に散らばる残留二世の調査を続けています。この他にも、政府としてできることはたくさんあると思います。
猪俣 岸田(文雄)首相は、一昨年3月の参議院予算委員会で、「政府一丸となって、こうした人々(フィリピン残留日本人二世)により一層力を入れて取り組みたい」と発言し、日系人社会に大きな希望を与えました。高齢の残留二世たちに残された時間は少ないですから、外務省、法務省などが協力し、総がかりであたって頂きたい。2019年の陳情でも伝えたように、一括救済を含めた法改正による政治決着を改めてお願いしたいです。
石川 たとえ残留二世が他界した後でも、三世の就籍というかたちでの支援は国としてできると思います。それに、日本の国内人口の平均年齢は約49歳です。日本社会としても、特定技能の分野などで広く外国人労働者を呼び込んでいる状況ですから、日系人の雇用という側面からも就籍を考えていく必要があると感じます。
猪俣 おっしゃる通りです。長引く不況、言語の問題などもあり、フィリピン人が日本で働くメリットがどんどん薄くなっています。介護職を例に挙げれば、日本は現地語での資格取得が必要な上、給料がとても安い。それならと、同じ英語圏であるカナダやオーストラリアなどを出稼ぎ先に選ぶ人が増えているのです。
しかし働き盛りである日系四世たちは、日本で働きながら、おじいちゃんとのつながりを感じたいと言います。彼らが日本で就労することは両国をつなぐ架け橋となるはずです。
石川 また、これは教育の話になりますが、現代史を学ぶと、日本が戦争に踏み切った理由、他国でたくさんの悲劇を起こしたことがよく分かります。日本の学校での日本史の授業は、半分以上、現代史に充てるべきです。戦争が終結してから、まだ78年しか経っていません。戦後を生きる私たちは、戦争で何が起きたのかを理解し、その影響を今も受け続けている残留二世がいること、その彼らの問題を、自らのこととして受けとめ、関心を向けているでしょうか。二度と戦争を起こさないために、私たちは何をすべきかを真剣に話し合うことが大切です。
猪俣 タモガンを生き延びた残留二世から話を聴くと、軍人に引率されて何時間も歩き、飢餓に苦しみながら、米軍の空爆や反日ゲリラの銃撃を命からがら逃れたといいます。ある残留二世は、幼い自分を胸に抱えて逃げ続けた母親への感謝を何度も口にしていました。彼らの証言は、歴史の真実を伝えるとても貴重なものです。
今も、ウクライナやガザなど世界各地で紛争が起きています。残留二世たちの声をしっかりと受けとめ、後世に伝え、戦争を繰り返さないよう努めることは、今を生きる私たちの責任でもあります。