【特別インタビュー 第40回庭野平和賞受賞者 ラジャゴパールP.V.氏】 非暴力という希望へ踏み出す「徒歩行進」 互いの宗教を尊重し、課題解決の道を共に
未来
庭野 ガンディーの言葉に「非暴力は人類に残された最大の力」というものがあるそうですが、ラジャゴパールさんが思う「非暴力の可能性」について教えてください。
ラジャゴパール 私がその言葉を聞いて思ったのは、次のような考えです。人類はこれまで、世界秩序を、我々がすでに持っている知識を基に構築してきました。ですから、今でも戦争で土地やいのちを奪い合い、蹂躙(じゅうりん)するという、残念ながら人類のレベルはそこまでしか達していません。
遺伝子を研究している友人の科学者は、人間の脳には三つの層があると言います。爬虫類(はちゅうるい)から四肢動物、類人猿へと進化してきたのですが、人類には爬虫類や猿の部分が残っていて十分に進化し切っていないと。欲望のままに争ったり、貪(むさぼ)ったり、そうやって爬虫類や猿の部分に餌を与え続けていると、人間の本質である慈愛や共感、尊敬といった大事な部分が十分に発達できなくなってしまうそうです。
我々が直面している課題は、どのようにこの人類の意識レベルを持ち上げることができるのかということです。それに役立つ一つが宗教かもしれません。宗教はこれまで人々をつなぎ、気持ちを高めるなど大きな役割を果たしてきました。その宗教が今、争いの原因になっています。インドを見ますと、イスラーム教徒とヒンドゥー教徒が自分たちの宗教を基に戦っているわけです。そこで私は、宗教をスピリチュアリティー(霊性)として捉えることで、境がなくなるのではと思うのです。
こうした課題に取り組む上でも、非暴力は非常に重要な役割を果たします。非暴力とは理論ではなく、実践です。暴力のない状態にするだけでなく、権利が守られ、あらゆる人が自由に経済にアクセスでき、環境にも優しいなど、全ての人が平等に尊ばれる世界を非暴力は築くことができる。私はそう信じています。
庭野 現実に対する行動のみならず、未来を変えていく――非暴力の壮大さに感動しました。また、一つの宗教に固執するのではなくて、あらゆる宗教の持つ精神性をリスペクトしながら世界とつながっていく。それが人類全体の幸福であると改めて学ばせて頂きました。
私自身、理論にとどまるのではなく、どう行動するのかと、ラジャゴパールさんから投げかけて頂いたような気がします。ありがとうございました。
プロフィル
ラジャゴパールP.V. 1948年、南インドのケーララ州生まれ。インドの独立運動に挺身(ていしん)した父親の影響でマハトマ・ガンディーの非暴力の精神に感銘を受ける。89年、非営利団体エクタ・パリシャドを創立し、貧しい人々の尊厳と権利を取り戻すため、大規模な徒歩行進を先導。農村部の住民の権利、土地改革などを訴えている。