日本国憲法施行70年 「平和主義」は有効なのか?(2) 伊勢﨑・東京外国語大学大学院教授に聞く

東京外国語大学大学院の伊勢﨑教授

日本は戦後、「戦争放棄」を定めた憲法を有する平和国家としての道を歩んできた。一方、現在、国会では、改憲勢力が3分の2以上の議席を占め、衆参両議院で憲法審査会が始まるなど、「改正」への論議が高まりを見せている。5月3日には、安倍晋三首相が改憲への意思を改めて表明した。日本は今、大きな岐路に立つ。国際情勢を踏まえ、一人ひとりが考えることは何か――紛争の現場で武装解除や平和構築に取り組んできた東京外国語大学大学院の伊勢﨑賢治教授に話を聞いた。

日本の平和はどこから? 国民に求められる姿勢

――憲法9条に照らして日本の現状をどう考えますか?

9条は、戦争を否定し、戦争をしないという意志の表れですから、非常に尊いものだと考えています。一方、9条に示されている「理念」と、米軍を含めた軍事力に依存を強める「現実」との乖離(かいり)が年を追うごとに進んできました。

日本はおおむね平和な国だといわれますが、その理由を国民に尋ねると、9条と日米安全保障条約を挙げる人が多くいます。東西冷戦期、日本政府は憲法を盾に米国の戦争への協力を拒み、米軍の戦争に直接加わりませんでした。その意味では9条の意味は大きい。しかし同時に、日米安全保障条約のもと、世界最強の軍事力を有する米軍の傘下にある限り、対抗できる国はないから平和は保たれると認識されてもいます。

――国のあり方が国民の中で定まっていない?

紛争の当事国から中立であるには、当事国に領土を使わせない、通過もさせない、資金を提供するなどあってはならないというのが国際法の定めるところです。しかし、米軍に対し、日本はどれも当てはまりません。日米地位協定に「在日米軍基地を紛争には使わせない」といった規定はなく、米軍が戦争をすれば、日本も戦争に加わっていることになります。これは、国際紛争を「武力で解決しない」と定めた9条に明らかに抵触します。

ですが、日本人の多くに「戦争をしている」実感はありません。米国本土は日本から遠く、戦場である、例えばイラクなどはさらに遠くに位置しているためでしょう。しかも、日米地位協定をはじめとした駐留米軍の問題は、日本全体で考えることであるのに、基地の大半を沖縄に押し付けて、「沖縄の問題」にしてしまっています。

――一昨年の安全保障法案の審議の際、集団的自衛権を容認する憲法解釈の変更が問題になりましたが

実は、これ以前の小泉政権時に2回、憲法違反とされてきた集団的自衛権の行使がなされています。一つは、2001年の米国同時多発テロ直後のNATO(北大西洋条約機構)軍によるアフガニスタン攻撃の際に、インド洋上で行われた海上自衛隊による米英艦船などへの給油活動。もう一つは、2003年、米国がイラク戦争に踏み切った後に始まる陸上自衛隊のサマワ派遣です。9条のもと、日本はすでに、「米国の戦争」に参戦していたのです。一昨年の集団的自衛権の解釈変更は、ごまかされてきたことが明らかになっただけとも言えます。

また、2009年から現在まで、ソマリア沖の海賊から日本船籍の船、日本企業の運航する外国船、日本人が乗船する船を護衛するため、自衛隊による海上警護活動が行われています。船体射撃も可能です。このために、ジブチに自衛隊基地がつくられています。

当時の国会では、9条の観点から派遣を問題視する意見が出ましたが、「日本人を守るため」という考えが示され、社会全体もこれを支持しました。軍事組織を海外に出さなければ守れないような国益は求めない、というのが現憲法の精神ではなかったのでしょうか。

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