「発達障害啓発週間」特集 誤解や偏見をなくし、共に生きる社会へ(3)

親への伝達、その後のコミュニケーションを心がけ

「うちのクラスに不登校の子がいるんですが、一緒に家庭訪問に行って頂けませんか」。隣のクラスの教師からそう頼まれ、中学1年の学年主任を兼ねる及川晋太郎さん(58)は、井上啓介君宅を訪れた。3年前のことだ。

及川さんは、かつて職員対象の勉強会や、発達障害のある小学生の支援ボランティアに参加し、その知識を深め、生徒や保護者との関わり方を学んできた。井上君宅を訪れ、実際に話をしてみると、発達障害かもしれないと感じられる面が見受けられた。両親に聞いた幼少期からの様子も、その特徴に当てはまった。

井上君の不登校につながった要因の一つに発達障害の可能性があることを両親に伝え、専門機関での受診を勧めた。両親は当惑するばかりで、聞き入れなかった。

その後、及川さんは井上君宅への訪問や電話を通じて、母親と話し合った。母親のわが子を思うがゆえの苦しみや悩みに、しっかりと耳を傾けることを心がけた。子供の成長を支える親と教師が連携を密にするためには、不安を抱える親に寄り添うことが大事だと及川さんはいつも感じているからだ。

及川さんは改めて「発達障害支援センター」という簡単な診断テストが受けられる場所があることを伝えた。井上君は支援センターで診断を受け、その後の受診で、発達障害によって、人とのコミュニケーションが苦手なことや、感覚過敏のため周囲に脅迫観念を抱いてしまうなどの特徴があることが分かった。

「いつも親御さんに伝えるか、悩みます。でも、生徒の将来を考えたら、きちんと伝えて、医療機関につなぐことが大切になります。発達障害であるなら、その子に合わせたケアが行えます。それが縁をもらったわれわれ教師の役目だと思うのです」と及川さんは話す。

【次ページ:一人ひとりを尊ぶ姿勢で共に歩む】