「発達障害啓発週間」特集 誤解や偏見をなくし、共に生きる社会へ(3)

原点は、その子に合わせたオーダーメードの保育

その夜、帰宅した藤川さんの元に工藤さんからメールが届いた。夕飯を食べる貴志君の写真に、「今日はわざわざありがとうございました」の一言がかわいい絵文字付きで添えられていた。

藤川さんは園児の保護者に「不安があったら連絡して」と話し、自らの電話番号とメールアドレスを伝えている。園児のことで気になることがあると、その日のうちに電話をかけ、応対のない場合はメールを送る。事前の約束もなしに訪ねるのは悪いと思いつつも、心配事によっては家庭を訪問することも珍しくない。「育児に不安を感じない親はいません。だから、つらい時に『助けて!』と言える人が一人いるだけでも、気持ちが楽になると思うのです」。

保育士は発達障害の知識はあっても、それを診断し、伝える立場にはない。加えて、「3歳児までは特に判断が難しい」ともいわれる。「発達障害の特徴に近い所作」が、成育歴や家庭環境を要因に現れることがあるほか、性格によってもそう見られてしまうことがあるからだ。

そのため、特徴があっても慎重な姿勢で臨み、親子を「発達障害支援センター」や「保健センター」へとつなぐことを第一義にしていると、藤川さんは話す。医師や保健師、臨床心理士や言語聴覚士らによる専門的な判断を仰ぐことで、そのアドバイスに沿って親は障害の特性に合わせた子育てができるようになる。

例えば、発達障害によって会話を理解するのが不得意であったり、気持ちを言葉にするのが苦手であったりする子供には、「絵カード」を用いた方法が有効な場合がある。日常の動作をイラストと文字で描かれたカードを、言葉の代わりに用いるのだ。それだけで、親子のコミュニケーションが増え、子供が親の愛情を感じる場面を増やすことにつながる。その「お手伝い」をしたいと藤川さんは思ってきた。

「発達障害」という言葉を初めて耳にした時、多くの親は、わが子が全く成長しないように受けとめてしまいがちだという。だが、決してそうではない。時に成長の速度が遅くても、できないことに目を向けて落ち込むのではなく、できることを理解して愛情を注ぎ続けることで、その子らしい成長が望める――希望をもって子育てしてほしいと藤川さんは親たちに伝え続けている。

発達障害の症状は多岐にわたり、園児によって程度の違いもある。複数の症状があることも少なくない。発達障害児を預かる保育園では、一人ひとりの特性を理解し、それぞれに合わせた保育を手探りでしなければならないが、「これこそが、本来の保育のあり方」と藤川さんは言い切る。

「子供一人ひとりに合わせて、オーダーメードの保育を展開することに、障害の有無は関係ありません。このことは、教育者として、一番大切にすべき原点だと、強く思っています」。親が元気になること、子供がありのままに成長することを藤川さんは願っている。

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