【詳報】比叡山宗教サミット35周年記念 「世界宗教者平和の祈りの集い」 平和への歩みを未来につないで
シンポジウム
かけがえのない命を伝えていく
薗田稔師(秩父神社宮司、京都大学名誉教授)
地球には、約40億年前に原始生物が誕生し、約200万年前に人類が生息し始めました。先端科学は、人間が原始生物の遺伝子を継承していることを示し、あらゆる生命と共生しながら、生きてきたことを明らかにしました。しかし、人類の営みは深刻な気候変動をもたらし、生物の生存が危ぶまれる状況に至りました。21世紀を迎えた私たちの最も大きな課題は、この破壊的な物質文明を軌道修正することではないでしょうか。
人間と他の生物との大きな違いは、自分がなぜ生まれ、生き、死んでいくのかという主体的、実存的な問題を抱えて生きていることです。生まれながらに、よりよく生を全うするために、生死の意味と価値を永遠に問い続ける宿命を背負っているのです。全ての生物が関連し、生かし生かされて生きているという厳粛な事実を前にした時、また、生きとし生けるもの全てにかけがえのない命が与えられていると分かった時、自他の命の尊さ、自己が生かされていることの有り難さに気づくことができます。
神道では、親を通じて神々や祖先から命が与えられ、また、死を通じて子孫や自然に命が伝えられていくと考えます。自分が生死を全うしたら、やがて祖霊となり子孫に祀(まつ)って頂くと受けとめ、万物にも霊的な命が宿ると信じています。仏教でも、「一切衆生悉有仏性(いっさいしゅじょうしつうぶっしょう)」「草木国土悉皆成仏(そうもくこくどしっかいじょうぶつ)」の言葉にあるように、「仏性」という名の霊性を万物に認めています。
このような、宗教性に由来する本来の生命感を取り戻すことが、破壊的な物質文明の軌道を修正するための大事な指針になると考えています。
仏教の「戒」を生活に生かす大切さ
竹村牧男氏(世界宗教者平和会議=WCRP/RfP=日本委員会平和研究所所長、東洋大学名誉教授)
環境問題に対し、聖職者、そして、信仰を持つ人々は何をすべきか――これを、仏教の視点から考えてみたいと思います。
仏教では、身心と環境は不二一体、分けることができない関係であると考えます。つまり、環境を傷つけることは自己を傷つけることになるのです。これを理解することで、環境の保護や維持に努める意識が芽生え、実際の生活でも、そうした生き方を志向するようになるのではないでしょうか。
仏教の「戒」を生活に生かすことも大切になります。戒は自身を律するもので、信仰を確立する中で、おのずと戒に沿った生き方を選ぶようになります。大乗仏教の『梵網経(ぼんもうきょう)』にある「十重四十八軽戒(じゅうじゅうしじゅうはちきょうかい)」には、環境問題の解決に効果的な内容が記されているように思います。また、「三聚浄戒(さんじゅじょうかい)」には、悪をしない、善を行う、他者を利するという三つの精神が説かれていますが、自らを律することに加え、利他活動の実践を推奨する点が大きな特徴です。仏教では、私たち自身の行為が、現世だけでなく来世に、また、自分だけでなく他者に対しても影響を及ぼすと考えられていますから、教えを学ぶことで自他を損ねるような行為を慎むべきとの思いが強くなります。
こうしたことから、仏教者は戒を基にしたライフスタイルを導き、自ら実践するとともに、他の人々にもその生き方を訴えていくべきではないでしょうか。その行動基準は、他者に苦を与えるのは忍びない、他者の苦を取り除きたいという、共感共苦の心にあると思うのです。
全員の幸福を重視する生き方を
ジェームズ・バグワン師(メソジスト教会牧師、太平洋教会協議会=PCC=事務総長)
太平洋の島々に住む約1500万人のうち、私たちキリスト教共同体の信徒はその8割を占めます。ここに暮らす人々は、気候変動問題の最前線に置かれ、すでに最悪の事態に備え始めています。気候変動による海面上昇により、海抜の低いサンゴ礁の島国では、移住を余儀なくされています。
こうした状況の中、政治の在り方、開発優先の論理を改める必要があります。宗教者として取り組むべきことは、環境問題に関する討論への積極的な参加や、教会や信徒のコミュニティーを通じ、持続可能で回復力のある、かつ公正な共同体の構築を奨励することなどが挙げられます。
私たちが気候変動の危機を克服できるかどうかは、人々がどのような倫理観や価値観を持って生きるかに懸かっています。
今、世界に求められているのは、新しい生き方です。私たちの兄弟・姉妹である生き物や自然を搾取の対象とせず、自然と共生してきた私たちの祖先の慣行に敬意を表すことが大切になります。
ローマ教皇フランシスコは、人間とそれ以外の生き物による家族の連帯を強めるようにと、エコロジカルな改心を呼びかけました。私はこの呼びかけに深く共感します。
生物多様性の保護を開発の中心課題として位置づけ、精神性を重視し、環境と調和のとれた生活習慣と先祖伝来の知識を守ること、そして、一部の少数の人々の利益より、全員の幸福を重視するような生き方をすること――それは、気候変動の危機や社会的・経済的危機を脱する鍵となり、「地球家族」の繁栄につながると確信しています。
宗教宗派を超え、地球環境を尊ぶ
デスモンド・カーヒル師(アジア宗教者平和会議=ACRP=実務議長、ロイヤルメルボルン工科大学名誉教授)
現在、世界の総人口の55%が、面積にしてわずか3%の都市部に暮らしています。巨大都市は経済の中心地として機能する一方、食料やエネルギーの大量消費による環境負荷が大きく、気候変動問題の誘因の一つだと言われています。
巨大都市に住む人々の生活に、宗教は密接に関わっています。死者を送り追悼する、祝い事を執り行うほか、貧しい人や病める人のケア、ホームレスなどの困難な状況にある人々の支援といったさまざまな役割を担っているからです。その中で、地球環境を守るために、宗教者が巨大都市で果たすべき役割も大きいのですが、その責務を十分に果たしているとは言えない状況です。
神仏によって創造された地球環境を尊ぶ考え方は、全ての宗教者の共通認識だと思います。ですから私たちは、宗教宗派を超え、気候変動問題に対処する必要性を人々に伝えていかなければなりません。そして何より、宗教者自身が行動で示す必要があります。
その一つとして、私は、宗教施設の改良を提案します。敷地の植物を増やすこと、また、太陽光パネルや風力による発電を促進し、聖なる空間でクリーンな再生可能エネルギーを使うといった工夫が挙げられます。
現在、沿岸部の都市では、海面上昇、高潮や満潮時の水害といった危険への対処も喫緊の課題です。私たちが自然を管理し、災害を予測するには限界があります。巨大都市は、経済活動の中心であると同時に、気候変動問題の解決に向けた拠点としての役割が期待されていると感じます。