豊かさを問い直す「原点回帰」の動きが各地で GNHシンポジウムから内山節氏の基調講演
「人間が生きる」ためには、さまざまな要素が必要です。まず、何らかの形で「労働」をしなければいけない。「労働」をしていけば、そこに「経済」が生まれ、「暮らし」や「生活」が発生する。さらに、定住すれば「地域」が、「地域」の発生によって土着的な「文化」「信仰」が誕生する。近代以前の伝統社会においては、日本だけではなく世界中で、あらゆる要素が分離できない形でつながり合っていました。労働の中にも文化があり、暮らしの中に信仰がある。そうした生き方の主体こそが自分であり、共同体であったのです。
ところが近代になってくると、労働は労働、経済は経済、信仰は信仰と切り離されていきました。現在では密接なはずの労働と経済さえ分離し、金銭を得るだけが目的の労働という状況があります。
私はいま一度、労働の中に暮らしも地域も文化も信仰もあるような一体的な世界、しかもそこにある関係を自分たちで構築していると実感できる世界をつくっていかなければいけないと思っています。
先ほど、島根の海士町の話をしました。海士町では都会の若者がどんどん島に来て、新しい産業が生まれています。ところが、数年経つと島を離れ、東京や大阪に戻っていく人も結構いるんです。しかしそれは、悪い意味ではありません。むしろ海士町とのつながりを大事にしながら、海士町の海産物を売る販売ルートを確立するために都会に拠点を置くといったように世界が広がっています。
「システムを良くしていけば良い時代になる」と考えていたこれまでから、システムに従属するよりも、どう関係をつくるかを考え、伝統社会の発想から学ぶ――その重要性に多くの人が気づく時代に入ってきたのです。