『ロボット工学と仏教――AI時代の科学の限界と可能性――』(佼成出版社)発刊 科学と宗教の交わりが開く知
上出氏も「ロボットを使う側である私たち人間の心をいかに整えていくかが重要」と指摘する。
「作法の話にも通じることですが、華道とか書道とか柔道とか、“道”のつくものに携わっている方は、物をとても大事にされますね。物から何かを学んでいる、そんな気持ちが伝わってきます。物を大事にすると物のありがたさとか、人に対する感謝の気持ちも湧いてくる。人とロボットとの間でもコミュニケーションが生まれると、ロボットの声が聞こえてくるのでしょうね。物に対する作法が整っている人にとっては、物はただの物質ではなく、擬人化されていき、まるで人と接するように触れ合うようになりますね」
茶道や華道など“道”のつくものはみんな、仏教の影響を受けている、と森氏は言う。「剣術では人を殺傷する技だが、剣道となると学校教育にも取り入れられ活用されている」。その「剣」を仏教が教える「三性(善、無記、悪)の理」に当てはめると次のようになるだろうか。剣は人を殺す道具にもなり(悪)、人の心を養う教育の道具にもなる(善)。剣そのものは、切っ先が鋭い刃物にすぎない(無記)。その無記である剣を善にも悪にもするのが、人間の心である。無記である剣を善として作用させるか、悪として働かせるかは、人間の心の「制御(コントロール)」に懸かっている。制御が利けば善が現出し、制御不能に陥れば悪に転ずる。この「制御」という考え方を用いて「原子力発電」を観るとどうなるであろうか。その詳しい内容は第13章に書かれてある。
この「三性の理」のほか「二元性一原論」も本書のキーワードである。「二元性一原論」とは、「陰」「陽」という正反対の二つ(二元)が融合し協力して全てが調和し、滞りなく動いているのが、この宇宙の本質(原)だとする理論である。「ロボット工学と仏教、一見すると異なった世界のようです。その異なったものの間に同じものを見つける。そうした姿勢からは、対立していたものが一つにつながる可能性も出てきます。一つの視点にこだわらない柔らかな発想を研究に生かしていきたい」と上出氏は語った。
本書は、上出氏が研究会に森氏を講演者として招いたところから始まる。2013年のことだ。この出会いを通して、上出氏は森氏を“師匠”に仏教の勉強を開始する。16年には中国・上海で開かれたロボットの開発に関する国際会議で、上出氏はロボットづくりに応用できる仏教の教えを英語で説明した。13年から16年までに交わされたメールは600通以上。その“往復書簡”を基にまとめられたのが本書である。全512ページで、17章から成り立っている。上出氏が特に薦める章は、原発の問題が出てくる第13章「ロボット事始めから原子力の善・悪まで」、仏教のものの見方や考え方に新鮮な感動を覚えた第2章「仏教と科学の出会い」、仏教を主体的に実践していくことの大切さが説かれている第14章「上出、国際会議で仏教哲学を紹介」だ。
【あわせて読みたい――関連記事】
ロボット博士の森氏、名大特任准教授の上出氏が庭野会長と面会