『ロボット工学と仏教―AI時代の科学の限界と可能性―』(佼成出版社)発刊 科学と宗教の交わりが開く知

ロボットづくりの現場で仏教の考え方は役に立つのか――。科学と宗教、この一見、相反する分野の接点を明らかにしたのが、『ロボット工学と仏教―AI時代の科学の限界と可能性―』(佼成出版社=6月30日発刊)である。著者は、森政弘・東京工業大学名誉教授と上出寛子・名古屋大学特任准教授の二人で、森氏はロボット工学の先駆者でありロボットコンテストの生みの親として知られ、仏教にも造詣が深い。上出氏はロボットなど最先端技術の開発に心理学者として携わっている。森氏との出会いを機に仏教の見方や考え方を研究に生かし始めた。科学技術と仏教、そして心理学の関連性について両氏に聞いた。

ロボットの開発に人の心と行動を扱う心理学が、なぜ関わるようになったのか。その背景には、ロボットの開発が人間の幸福に役立っているのか、という危機感があると上出氏は説明する。

東京工業大学の森名誉教授

「二足歩行ロボットが世に出、皆さんをワクワクさせた時期がありました。その時期は、人間を楽にさせ、安心させ、かつ親しみもあるロボットが、大きな関心事でした。これに対して、人間にとって都合のいい利便性を追求するあまり人間の心自体が損なわれてしまうのではないか、といった問題が提起されるようになります。例えば、車の自動運転技術ですが、便利ではあるけれども人間が移動する際に使うさまざまな身体的および心理的な機能や潜在的な能力を失わせてしまうのではないかといったことです。技術開発と心理学を融合した研究が求められる、とても重要な時期に差し掛かっていると感じています」

人とロボットとのより良い関係を築くにはどうすればいいのか。そのカギとして森氏は「ロボットに対する人間の作法」を提示する。これまでの研究開発では「人間に対するロボットの作法」、いわゆる「人間に対してロボットはどう振る舞えばいいのか」に焦点が当てられてきた。森氏が提案する「ロボットに対する人間の作法」には、ロボットに対する人としての心遣いや配慮、さらにはロボットから学ぼうという姿勢も含まれる。

「一切衆生悉有仏性(いっさいしゅじょうしつうぶっしょう)と仏教では教えていますよね。物にも仏のいのちが宿っている。だから大切にしたくなる。尊さは、物も人間も同じなんですね」

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