【特別インタビュー 第35回庭野平和賞受賞団体・アディアン財団 ファディ・ダウ理事長、ナイラ・タバラ副理事長】 中東・レバノンなどで共生教育の普及へ

庭野 教師と学生が、相手を尊重する大切さを学んでいるのですね。アディアン財団が「多様性が豊かさを生む」という信念を持つようになったのはなぜですか。

ダウ 人間の素晴らしさは人それぞれであり、自然の美しさも変化に富んだものです。すなわち、多様性は「現実」であり、「事実」なのです。多様性は常に、至るところに存在し、なくすことはできません。社会の最小単位である家族でさえ、両親が子供たちの違いと良さを認めなければ、問題が起こりますよね? 全ての人間に同じ考え方を強いたり、同じものを信じさせたりすることが不可能であることは、人類の歴史が証明しています。多様性という事実に目を背け、無理に行えば、対立や戦争につながります。多様性の否定は不公正で非生産的であり、多様性を認め、共に生きていくことを学んでいく必要があるのです。

庭野 多様性を認めるとは、突き詰めれば、相手の全てを受け入れることだと思います。秘訣(ひけつ)はありますか?

ダウ 「ありとあらゆる『善』を信じること」「他者との関係において“共通善”を信じること」「自分を信じ、自分の中にあるものを恐れないこと」が大切です。そして、「世界をより良くしていくための責任が一人ひとりにあると自覚すること」です。五つ目を付け加えるならば、「自分が他者よりも優れていると思わないこと」。他者の中には往々にして自分は持ち得ていない善、美徳があるからです。

タバラ 多様性教育において重要な点の一つは、学生たちが「それぞれの宗教が、人類共通の遺産である」と学ぶことにあります。

このプログラムではまず、さまざま宗教の教えを引用し、学生たちに紹介します。この時、その言葉の出どころ、出典は伏せたまま、学生に好きなものを選んでもらいます。最後に引用元を伝えると、学生たちは自身の信仰とは異なる宗教の言葉に自分が共鳴したことに驚くのです。

ある女の子は私に、「他の宗教の内容を好きになることは、自分の宗教を裏切ることになりませんか?」と質問してきたことがありました。大人でさえ同じ疑問を持つ人は多いでしょう。

私は、「たとえそうであっても、自分の信仰に忠実ではないということにはならない」と教えています。他の宗教の智慧(ちえ)や叡智(えいち)に触れることで、私たちは自己と他者の宗教にそれぞれ共通する善があることを知り、その共通善のために異なる宗教、文化を持つ人々と一緒に現実的な問題の解決に取り組むことによって、他者を自らの中に、そして社会の一員として受け入れていくことができるようになるのです。

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