【特別インタビュー 第35回庭野平和賞受賞団体・アディアン財団 ファディ・ダウ理事長、ナイラ・タバラ副理事長】 中東・レバノンなどで共生教育の普及へ

ダウ理事長とタバラ副理事長にインタビューする庭野理事長

庭野 さまざまな取り組みの中で、「紛争和解や平和構築には教育が最も重要」という立場から、青少年や教師、宗教者を対象としたプログラムを開発してこられました。なぜ教育に重点を置くのですか。

タバラ レバノンでは、中等教育まで、同じ宗教宗派の学生同士が一緒に教育を受ける学校制度になっています。大学進学か就職の時に、初めて異なる宗教を持つ人たちと出会うのですが、経験がないためにそうした人たちをどうしても恐れてしまうのです。

こうした状況を変えるため、私たちはまず、中等教育を受けている子供たちに、全ての人が市民として同等の権利を有していると伝えることから始めました。卒業後に、自分と宗教の異なる人々と出会い、より良き関係を構築していってほしい、そしてレバノンの遺産を共に大切にしてほしいと思ってのことです。

当初は、学校に宗教を持ち込むと警戒され、資金協力は得られず、ボランティアとして活動を始めました。2年目にユネスコがパートナーになってくれ、現在では、毎年40校の約1000人の学生たちが受講しています。

ダウ 若い世代が良き市民となって多様性を受け入れていく、そのために、「教育は力なり」だと思います。

この中には、社会的に認められたアディアンの活動の一つとして「地域サービスプログラム」があります。教育省が高校生に60時間の社会貢献活動を奨励する法律を制定した際、私たちは、学生が地域サービスを円滑に行えるように具体案を示し、学生を導く教師へのトレーニングを行うことになりました。

庭野 教師へのトレーニングとはどのような意図があったのですか。

ダウ 異なる地域の教師たちが互いに学び合うことが目的の一つです。トレーニングの例を挙げますと、壁に12枚の紙を貼り、12カ月に見立てます。次に各教師に、苦しみを負った日を挙げてもらいます。すると、傷ついた記憶がよみがえります。南部から来た教師ならイスラエルとの戦争を、北部の教師はシリアとの戦争を思い出すかもしれません。そうした記憶を発表し合い、他者と痛みを共有するのです。

このトレーニングを通して、まずは教師自身が他者の苦しみに対する共感力を持てるようになっていきます。相手の言葉に耳を傾け、お互いを受け入れて初めて、「協働」が可能になることを知るのです。

イスラーム学専門の大学講師でイスラーム教徒のタバラ副理事長

タバラ 子供たちは、実に多彩な地域サービスプログラムを考えます。昨年は1108のプロジェクトが実施されました。

例えば、シリア難民が仕事に行くためにバスを待つ場所がありますが、そこには屋根がありません。雨でずぶ濡(ぬ)れになっていることに気づいた学生たちは、難民のために屋根のあるバス乗り場をつくりました。これは外国人に対する連帯の表れ、全ての人の権利を尊重する「非排他的市民権」の表れだと思います。

レバノンは現在、若者の流出という大きな問題を抱えています。国内に問題があり過ぎるために、若者の多くは、自国に見切りをつけて出て行ってしまうのです。プロジェクトを通じて学生に「自分にもできる」「何かを変えられる」という経験を積ませ、この国で生きていってほしいのです。

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