鼎談 『いま、宗教者にできること』――北朝鮮情勢に対して
世界の出来事をわがこととする――祈り・対話・行動
庭野 今年の夏、92歳になる方からお話を聴く機会がありました。その方は16歳の時に、特攻隊として出撃し生還されたのですが、戦中戦後、多くの日本人がどれほどつらい体験をされたのかを改めて教えて頂きました。また、韓国にも北朝鮮にも、世界各地に幸せと平和を願っている人がいます。戦争を招きかねない現状の中で、日本が果たすべき役割、果たしうる役割は何だとお考えですか?
小林 日本は戦後、平和の理念を掲げ、平和国家として歩んできました。ですから、戦争の危機を和らげ、食い止めることが国家としてできる最大の役割だと思います。そして、戦前の日本が歩んだ道を世界につくり出さないことが、私たち一人ひとりに求められています。
戦後の日本は、戦前の失敗を反省し、例えば周辺諸国への加害責任などを含めて議論をしてきました。ところが、戦争を引き起こすような流れに加担してしまうとなると、再び過ちを繰り返すことになります。
先ほど、戦前と同じ状況をたどっていると言いましたが、私たちの努力によって結果は変わります。今こそ、戦前の反省を基に築かれた戦後の平和国家として歩んできた蓄積を生かす時だと思います。
戦前と同じ状況に至らしめないためには、現実に「対話」が必要ですが、同時に、多くの人々が戦争回避のために「祈る」ことも大切ではないでしょうか。
中村 祈りの持つ力を、最も感じているのは宗教者であろうと思います。筑波大学名誉教授の村上和雄先生も指摘されていますが、祈りとは、祈る側と祈られる側を一つにしていきます。心を通わせることにおいて大切であるとともに、思いもよらぬ力が働くことを私たちは宗教活動の中で実感しています。一人ひとりの切なる祈りは、世界の果てまで届くと信じています。
小林 祈りには力があるとのことですね。私は人間の心理と幸福の関係についての研究も行っていますが、ごく大ざっぱに言えば、祈りや瞑想(めいそう)などには実際に効果があることが科学的に分かってきました。
ですから、宗教者から平和を求める声を上げて頂くこと、そして一人ひとりができる「祈り」を示して頂くことに大きな意味があると思います。
もちろん、それぞれの祈りは限定的な力だと考えられるかもしれませんが、これが広がっていけば大きな力になります。現実的にも「もう圧力しかない」「戦争しかない」という雰囲気が生まれつつある中で、平和を求める祈りが広がることで、社会のムードが変わっていくのではないでしょうか。
戦争回避のための「祈り」、現実の政治の場では「対話」、そして一人ひとりの「行動」がとても意味を持ってくると思います。衆議院が解散され、選挙もありますから、有権者としての行動も問われます。宗教者には、平和へのモデルを示し、国内外に発信して頂ければと願います。
庭野 世界の出来事を“自分事”として受けとめ、考える。そして祈り、対話し、行動していけるようにさせて頂きたいと改めて思いました。ありがとうございました。
北朝鮮情勢に対する見解『因果はめぐる――今、私たちは』(立正佼成会ウェブサイト)
http://www.kosei-kai.or.jp/pdf/ingawa_meguru1001_2.pdf