鼎談 『いま、宗教者にできること』――北朝鮮情勢に対して

鼎談は法輪閣で行われた。左から本会の中村常務理事、庭野光祥次代会長、小林・千葉大学大学院教授

『いま、宗教者にできること』をテーマに、緊迫する北朝鮮情勢や衆議院選挙を踏まえての鼎談(ていだん)がこのほど、立正佼成会本部(東京・杉並区)で行われた。出席者は、千葉大学大学院の小林正弥教授、本会の庭野光祥次代会長、中村憲一郎常務理事。国内外の現状をはじめ、戦争を回避し、平和を実現する道筋や、そのための宗教者の役割などについて意見が交わされた。(本文敬称略)

≪出席者≫
小林 正弥・千葉大学大学院教授
庭野 光祥・立正佼成会次代会長
中村憲一郎・立正佼成会常務理事

「戦前」を想起させる危機

中村 北朝鮮情勢が緊迫し、世界で緊張が高まっています。「開戦前夜」のような感もあり、心配しています。この問題について、千葉大学大学院教授の小林正弥先生をお迎えし、光祥次代会長と共にお話を伺ってまいります。

庭野 私は、今生きているこの時代が、後に「戦前」といわれるのではないかと、とても心配しています。本会の開祖(庭野日敬開祖)は、宗教対話・協力による平和の実現に半生を捧げました。それは仏教の不殺生戒に基づいてのことだけでなく、宗教者としてあの戦争(太平洋戦争)を止めることができなかった慙愧(ざんき)の念からではないかと考えています。だからこそ、二度と戦争は起こしてはならないと平和活動に取り組んでいったのだと思うのです。

現在、北朝鮮の情勢をめぐり、日米の首脳は、さらに圧力を加えるよう国際社会に求めています。日本は76年前、国際社会から厳しい経済封鎖を実施されましたが、強硬策を取り、やがて戦争に突入していきました。対話を閉じ、圧力を強めていく危険性を理解しているはずの日本が、今、戦前と似た危険な状態をつくり出そうとしています。現在の日本、世界の状況をお聞かせください。

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。千葉大学大学院教授。専門は政治哲学や公共哲学、比較政治で、日本の「対話型講義」の第一人者として知られる。

小林 戦前と似た側面があるのではないかと今言われましたが、その通りだと思います。「戦前循環」「戦後循環」と私は言っているのですが、戦前にたどったのと似た状況が、戦後の現在にも起き始めています。

日本には戦前、「大正デモクラシー」といわれる議会政治が成立した時期がありましたが、まもなく崩壊し、その後は戦争に向かっていきます。最近の20~30年間は、選挙制度改革によってよい政治が実現すると期待されていましたが、実際には、かねて私が懸念していたように立憲主義や民主主義が危機に陥ってしまいました。

また、国際情勢に関しても、先の国連総会の日米首脳の演説には「戦前」を思わせるものがありました。「対話による問題解決の試みは無に帰した」という首相の発言がありましたが、これは、1938年に第一次近衛文麿内閣が発した「帝国政府は、爾後国民政府(中国)を対手にせず」という声明を想起させます。この声明の発表後、日本は交渉による解決の道を閉ざし、やがて戦争に突入していきました。現在の北朝鮮に対し、世界がこれと同じような状況をつくり出し、日本がそれを加速させてしまっていることを残念に思います。

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