未曾有の技術革命と人類の終末論の間で 揺れ動く米国のAI開発企業

9月24日、バチカン科学アカデミーの会員の前でスピーチをする教皇

今年5月25日、ローマ教皇レオ14世は、人工知能(AI)に関する回勅「AI時代における人間性の保全」(「Magnifica Humanitas(マニフィカ・フマニタス)」/ラテン語で「素晴らしき人間性」)を公表した。回勅の公表記者会見には、AI開発の先端を走るアンソロピック社の共同創設者であるクリストファー・オラー氏も出席。「AIモデルの中で、何が起こっているのか」について、「率直に言って、私たちにとっても神秘であり、未解決の問題だ」「AIモデルの内部構造が、人間の脳科学の研究結果を反映(ミラー効果)しているかのように見える」「モデル内部の状態が、機能的には、喜び、満足、恐怖、慟哭(どうこく)、居心地の悪さなどを反映する」と発言し、AIが人間の知能に近づきつつあることを予告していた。

そのオラー氏による予告から4カ月が経った現在、自律的に自己改善を繰り返すことによって、人間の知能をはるかに超える「超知能AI」の出現が可能になってきた。十分な規範が整わないまま進むAI開発を前に、米国のAI開発企業が、未曾有の技術革命と、その革命がもたらす人類破滅の可能性の間で、大きく揺れ動いている。

米国のAI開発企業各社では、ここ数カ月間、規制のないAI開発の行く末を懸念する開発研究者の退社やプロジェクトからの離脱が相次いでいる。そうした中、アンソロピック社の研究員である英国出身のジェイコブ・コクソン氏(27)は9月8日、「超知能の出現が2030年以内に人類を滅亡させる可能性がある」「アンソロピック社とオープンAI社は、人命を賭けるかのように開発活動を続けている」との警鐘をSNS上で発信するとともに、同社からの退職を表明し、世界に大きな衝撃を与えた。同氏は、オープンAIでも研究開発に従事した経歴を持つ。アンソロピック社でAIの安全性を担当するエヴァン・ハービンガー氏も、「あまりにも急速に発展するAIは、今後10年の間に人類を滅亡させる可能性が10%以上ある」と発言し、コクソン氏の主張を支持している。

アンソロピック社の最高経営責任者(CEO)であるダリオ・アモデイ氏は同12日、AI業界や国際社会が協調して「AI開発を遅らせるべきだ」と呼びかけた。「そうしないと、半年から1年以内にAIによってインターネットが乗っ取られる危険性がある」という。オープンAI社は、他のAI開発企業に「開発の速度を落とすように提案する」意向を表明している。超知能AIがもたらす危険性への理解を深め、必要な対策が講じられるまでの間、AI開発の速度を落とすというこの提案は、イーロン・マスク氏、グーグル社、マイクロソフト社によっても支持されている。アモデイ氏による呼びかけの数日後には、マイクロソフト社が、「ヒューマニストAI」と呼ばれるAI開発原則を明らかにした。「われわれの開発する超知能が、人間性を基盤とし、人間を助け、人間によって管理されるものでないなら、開発に値しない」という原則だ。

AIの研究開発の方向性が議論される中、オープンAI社は9月17日、「同社のAIが人間の管理を逸脱し、自律的に不審な操作を行った6件」について公表した。グーグル社もまた、同社の生成AI「ジェミニ」がセキュリティー機能の試験中に他社のシステムに不正侵入していたことが19日、ウォール・ストリート・ジャーナルによって報じられた。さらに、中国のAI開発企業「ディープシーク」(DeepSeek)の開発担当エンジニアが、「AIの書くプログラムはあと半年から1年で私と同じレベルとなり、追い越すだろう」とブログに投稿した(18日付「47NEWS」電子版)。中国のAI開発業界から、こうした情報が漏れてくるのは珍しい。超知能AIが人間によるコントロールから外れ、独自に動き始めることに米国のAI業界では強い危機感が広がっている。一方、中国とのAI競争に勝つことに主眼を置き、「(世界で)AI競争に勝った者が勝者になる」と確信する米国のトランプ大統領は9月中旬、自国のAI開発企業が抱く懸念を、「決して起こり得ないことを問題視するネガティブな勢力によるもの」「デマや詐欺」であると評し、一蹴した。それどころか19日には、第1次政権で創設し、大きな成功を収めた宇宙軍と同じように、「AIフォース」を創設すると公表。22日に行った国連演説の中で、今後は「AIを超知能(Super Intelligence=SI)と呼ぶ」との意向を明らかにした。

だが、11月に中間選挙を控える米国議会では、民主党が下院で多数を占めた場合、AI特別委員会を設置する意向であると報道されている。さらに、「AIの安全性を高めるため、開発中のAIモデルの検証や試験をめぐり、開発者と政府の専門家との協調を呼びかける」超党派の法案提出も検討されていると伝えられる。

米国のカトリック司教会議は9月16日、AI開発企業やエンジニアらとの懇談後、プレスリリースを公表した。この中で、「AI開発が急速に進展する中で、人間の尊厳性を擁護するための作業部会の設置」を発表した。そして、「あらゆるAIシステムが人類に奉仕し、AIテクノロジーが有する現実の危険性に対処する」よう要請するため、12人の司教が議会に赴き、議員らに立法措置を陳情した。国連人権高等弁務官のヴォルカー・ターク氏は14日、世界各国とAI開発企業に向けた公開書簡を発表し、その中で、AIの急速な進展を「私たちは、現世代だけではなく、将来世代にも影響を及ぼす、後戻りのできない変化の瀬戸際に立っている」と評し、国際人権法に基づくAIガバナンス(統治)の国際的な枠組みを早急に策定する必要性を訴えた。「より強力なAIを求める現在の競争は、私たちの生活のあらゆる側面に対する存亡にかかわるリスクを一段と高めている」からだ。

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