ウクライナが「忘れられた戦争」とならないように――教皇の警鐘(海外通信・バチカン支局)

バチカンが推進する平和外交の最高責任者である国務長官のピエトロ・パロリン枢機卿は12日、イタリアのリンチェイ国立アカデミーで『聖座(バチカン)と平和の展開』をテーマに講演した。この合間に、バチカン記者室の報道関係者たちと懇談した際、「一滴一滴の水が岩を掘る」というラテン語のことわざを引用しながら、「大量殺戮(さつりく)が行われているガザやウクライナで停戦が成立し、国際人道法が尊重されるようにと間断なく訴える教皇のアピールが、最終的に聞き入れられ、実現されていくように」と願った。

そうした教皇のアピールと並行し、バチカンによる「平和外交活動」の重要性についても主張した。11日に国際司法裁判所で、イスラエル軍によるガザ地区への大規模攻撃が「ジェノサイド」(民族大量虐殺)ではないかとの審理が始まったことについて、イスラエルによる正当防衛は受けたテロ攻撃に比例した範囲内で行われなければいけないと主張。「一般市民の犠牲を考慮して展開されるべきで、彼らの大量殺戮、インフラの破壊、国際人道法の不順守をして、正当防衛が実現されることはない」と訴え、「現代の戦争が、基本的な原則である国際人道法を尊重せず、一般市民を標的、対象とするようになったところに大きな問題がある」と指摘した。

ウクライナ侵攻に関しては、「当面、ゼレンスキー大統領の主張する和平案と、その人道的側面のための協力が中心となる。バチカン外交は、停戦に向けた直接の調停というよりは、交渉可能となる相互理解の条件づくりのために努力している」と明かした。

リンチェイ国立アカデミーでの講演では、ウクライナ、パレスチナ、中東地域、ミャンマー、エチオピア、スーダン、イエメンなどで展開されている戦争や紛争を、「目的地のない旅、勝者のいない敗北、許すことのできない狂気の沙汰」と非難。絶えない闘争、暴力、攻撃の前に外交官が自らの無能を感じていたとしても、「外交は、それぞれの理念、相対する政治的立場、相違する宗教的、イデオロギー的ビジョンを一致させるための特権的な手段」と評価した。

そのため、バチカン外交は、「人間や共同体と、彼らの基本的人権の希求を尊重するために和平プロセスを開始、安定させる世界の動向に同調していく」という。だが、「平和への道程は、労力を要し、その結果も定かではない。特に、国際政治とその指導者たちが、解決に向けて歩むことを躊躇(ちゅうちょ)する時はなおさらだ」と警告した。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)