宗教者の災害支援活動を振り返る 上智大グリーフケア研究所がシンポジウム
東日本大震災や熊本地震などの被災地で、宗教者による災害支援活動が展開されている。宗教者の多様な取り組みを広く共有し、今後の支援のあり方を探るため、上智大学グリーフケア研究所によるシンポジウム『東日本大震災から6年 支援活動を振り返って』(共催・宗教者災害支援連絡会)が5月11日、東京・千代田区の同大四谷キャンパスで開催された。
当日は、宗教者や研究者、学生を含む110人が参加。第1部では、被災地の支援活動に携わる4人の宗教者がそれぞれの活動を発表した。
移動式傾聴喫茶「カフェ・デ・モンク」を主宰する曹洞宗通大寺住職の金田諦應師は、「支援者として被災地に『入り込んでいる』私たちは、いつかは風のように去らなければならない」と心情を吐露。支援を終了する判断について課題を抱えていると語った。一方、過去にとらわれず、足跡を残さないという禅語「没縦跡(もっしょうせき)」を挙げ、宗教者は、自らの活動の功績や評価に執着せず、宗教的動機に基づいて目の前の人に寄り添うことが大事と話した。
続いて、認定NPO法人「カリタス釜石」の伊瀬聖子副理事長は、震災直後、カトリック釜石教会の建物の扉は閉ざされたままで、地域住民に開放できず、誰一人避難して来なかったエピソードを紹介した。この反省が、同団体を設立して公益活動に参画する一つのきっかけになったと詳述。その後、教会を被災した人々に開放し、全国から集まるボランティアの宿としても活用して支援活動に当たっていると報告した。
世界宗教者平和会議(WCRP/RfP)日本委員会の篠原祥哲平和推進部長は、東日本大震災と原発事故により被害を受けた人々を支える活動に対し、財的支援を行う「フクシマコミュニティづくり支援プロジェクト」の取り組みを報告。同プロジェクトへの申請書類を簡素化し、支援団体が活動に注力できるよう配慮していること、また、地域住民のニーズに合わせて素早い支援ができるよう、四半期に一度のペースで申請を受け付ける仕組みを設けていることなどを説明した。その上で、災害支援における宗教者の役割は、「行政サービスや経済活動から取り残された人々に対するサポート」と述べた。
一方、浄土真宗本願寺派総合研究所の安部智海研究助手は、仮設住宅への訪問活動の中で、3軒に1軒の割合で希死念慮を抱く住民に出会うと報告。これに対し、訪問を重ね、言葉に耳を傾けることで、住民から「人生捨てたもんじゃねぇ」といった前向きな言葉を何度も聞くことができたと話した。その上で、「世界中の人がその人を否定したとしても、肯定してくれる誰かがいることで、心は必ず変化するもの」と力説し、その「誰か」を担うのが宗教者と語った。
この後、被災地での宗教団体や宗教者の活動に詳しい大阪大学人間科学研究科の稲場圭信教授が、災害時における行政と宗教団体の連携について発表した。稲場氏は、宗教団体には、被災者を受け入れる場や備えなどの「資源力」、炊き出しや物資の仕分け、がれき撤去を担う「人的力」、心の安寧を与える「宗教力」があると指摘。これらを潜在的な「地域資源」として活用するために、宗教団体は日頃から高い防災意識を持ち、自治体と協定を結ぶなどして、災害に備えた連携の枠組みを構築していくことが重要と述べた。
第2部では、先の5人によるパネルディスカッションが行われた。同研究所所長の島薗進特任教授が司会を、同副所長の鎌田東二特任教授がコーディネーターを務めた。
なお、シンポジウム終了後には、同研究所主催による「東日本大震災追悼の集い」が行われた。福島・臨済宗妙心寺派福聚寺住職で作家の玄侑宗久師が『祈りの本質』と題して講演。次いで、浄土宗の僧侶による「声明(しょうみょう)」が奏上され、カトリックの司式による祈りが捧げられた。