傷ついた人類と地球の癒やし――バチカンがベサク祭を機にメッセージ(海外通信・本紙バチカン支局)

上座部仏教徒の多い国々では、インド暦でベサク月の満月の日に、釈尊の降誕、成道(悟り)、入滅(いずれも満月の日であったと伝えられている)を同時に祝う「ベサク祭」という慣習がある。バチカン諸宗教対話省は4月21日、ベサク祭に際して世界の仏教徒に宛てた『仏教徒とキリスト教徒――慈悲と愛を通して傷ついた人類と地球を癒やそう』をテーマとするメッセージを公表した。

この中で同省は、ベサク祭を機に、仏教の説く苦(ドゥッカ)の本質と原因、その克服について考察し、洞察力を得ていくことを呼びかけた。また、人生に苦は付き物だが、グローバル化された現代では、われわれの対処すべき諸問題が「単独ではなく、全人類を巻き込む緊張と悪の結果である」と主張。その例として、貧困、差別、暴力、無関心、人間と自然を尊重しない発展形態がもたらす奴隷制度、宗教的や愛国的な過激主義を動機として広がる憎悪、さまざまな不安と攻撃的な態度によって表現される生命に対する絶望的な姿勢などを挙げた。

こうした「人類が共有する傷」に対処していくためには、「独自の諸宗教伝統によって形成される新しい形での連帯が必要」と強調。その理由として、「われわれ人類は皆一つの家族であり、兄弟姉妹として相互に関連し合い、地球上で支え合って共に生きる住民」だからだと示した。2020年にローマ教皇フランシスコが公布した回勅『すべての兄弟たち』の中にも、「誰といえども、一人で救われることはなく、共に救われるのみ」と記されている。

仏教徒が、釈尊によって説かれた、生きとし生けるあらゆる存在に対する慈しみ(カルナ)を体得し、涅槃(ねはん)に入ることを放棄して、全ての存在が苦から解放されるまでこの世に留(とど)まることを決意した菩薩のように、自己を捨てて行動する時、世界に「癒やし」をもたらすことができるのだ。

「慈しみに支えられて生きる者には、世界的な規模で進展していく危機に対する解毒剤と、幅広く、相互に関連する諸悪に対して、包括的な慈しみを提供することができる」とメッセージの中で同省は訴えた。また、聖書にある「善きサマリア人」の姿を紹介。盗賊に殴り倒され道端で喘(あえ)いでいる、サマリア人とは敵対関係にあったイスラエル人旅行者を手当てし、彼の癒やしのために努力するサマリア人は、「相互に愛し合いなさいという、キリストが追随者たちに残した最大の遺産」であり、「神の愛」(アガペ)の模範だと伝えた。さらに、この「善きサマリア人」と仏教の「菩薩」を対比させ、「愛(慈悲)が私たちを似た者同士とし、平等を創造し、壁を打ち破り距離をなくす」と強調した。

最後に、上座部仏教の経典『慈経』の一節「全世界に対して無量の慈しみの意(こころ)を起こすべし。上に、下に、また横に、障害なく怨(うら)みなく敵意なき慈しみを行うべし」を引用し、メッセージを結んでいる。

世界教会協議会(WCC)のジェリー・ピレー総幹事も5月5日、ベサク祭を機に世界の仏教徒たちへ宛てたメッセージを公表。「釈尊が弟子たちと分かち合った内的な運動が、人間と全ての生命体の間に、慈しみ、愛の優しさ、相互間での完全な理解、寂静を流通させて滋養していくように」と願った。さらに、「共に諸宗教間での連帯を構築し続け、平和と全ての人々の福祉のために協力していこう」と呼びかけた。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)