庭野平和財団主催シンポジウム 家族の形が変わると、日本人の宗教性はどうなる?

『家族と宗教』をテーマにしたシンポジウムでは、5人の研究者が研究成果を基に、さまざまな観点から日本人の宗教性と「家」との関係について報告した(「Zoom」の画面)

古来、日本人の宗教的な感情や性質、すなわち宗教性は、先祖がつくった「家」を子孫が代々受け継いでいく中で培われてきた。しかし、さまざまな社会変動の影響によって、これまで家の中で当たり前に行われてきた正月、節分などの年中行事や、人の一生にまつわる通過儀礼、墓の問題を含む信仰の継承が今、大きく揺らいでいる。こうした現状を受けて、公益財団法人庭野平和財団は3月27日、『家族と宗教』をテーマに、オンラインでシンポジウムを開催。研究者や宗教者ら40人が参加した。

同財団では、昨年9月から今年1月にかけて、事前の研究会を5回実施した。研究会には石井研士國學院大學教授、鈴木岩弓東北大学名誉教授、寺田喜朗大正大学教授、問芝志保東北大学大学院准教授、丹羽宣子中央学院大学非常勤講師の5人が参加。5人はそれぞれの専門性を生かし、新宗教における家族の在り方と社会への影響や、墓制の歴史と現代的動向ならびに永代供養墓の永続性、仏教教団内での女性教師像の変化などについて考察してきた。今回のシンポジウムでは、その成果が報告された。

当日、発表に立った石井氏は、日本人は日常の通過儀礼や年中行事によって宗教性を表してきたと指摘。自宅に神棚や仏壇などの祭壇を設けて祖先を敬ってきた儀礼文化の存在こそが、家の中に宗教性が内在していることの証しであると述べた。

さらに、家族構造の主流だった大家族世帯が戦後の高度経済成長期に核家族世帯に代わり、その後の晩婚化や出生率の低下を経て、現在は未成年の子供がいない夫婦のみの世帯と、高齢者あるいは20~30代の未婚者による単身世帯が最も多いと説明した。その上で、儀礼文化の衰退がもともと顕著だった夫婦のみの世帯と単身世帯の数は今後も増え続け、さらに、仏壇や神棚を保有する割合が全世帯的に減少する傾向にあることから、家の中での祖先を崇拝する意識は薄れつつあると分析。最終的に、日本人の生活の中にある宗教性も希薄化していくとの見方を示した。

また、問芝氏は、社会学者の故・森岡清美氏が残した研究を紹介。この中で、死者は、子孫が行う祭祀(さいし)によって先祖と呼ばれ、家を加護・繁栄させるものになり、子孫は、先祖に感謝して家の永続を願うために先祖祭祀を重視してきたとの内容を説明した。

これらを前提に、近世(江戸時代)から現代までの墓のつくり方や墓地政策など墓にまつわる歴史や文化を解説。高度経済成長期には大多数の人が先祖祭祀や墓の継承を行うようになったものの、現在は低所得や低経済成長による先行きの不安から墓じまいをするケースが多いと報告した。その背景には、団塊世代の高齢化や、就職氷河期世代以降の有配偶率の低さによる単身世帯の増加といった家族構造の変化があると指摘した。

そうした内容を土台として、問芝氏は一昨年と昨年、神戸市にある大規模墓地の利用者約2100人を対象に行った調査について報告。その内容を検証した結果、先祖祭祀と墓の維持・継承を継続的に行えるのは、継承予定者がいることに加え、経済的な余裕がある人に限られる状況が浮き彫りになったと発表した。

これらの調査を踏まえ、家族構造の変化だけでなく経済的な問題も、先祖祭祀や墓にまつわる宗教儀礼の衰退の大きな一因になっているのではないかと述べた。