「『質素なクリスマスを』と呼びかけるキリスト教指導者」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)

パンデミックが残した教訓――教皇の世界平和祈願日メッセージ

世界のカトリック教会では、毎年元日に「世界平和祈願日」のミサが挙行される。バチカン記者室は12月16日、来年で56回目を迎える同祈願日に向けたローマ教皇フランシスコのメッセージを公表した。

テーマは、『誰も一人では救われない――新型コロナウイルスを起点に平和への道程を設定する』。新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的流行)は、長期間にわたり人間を孤立させ、自由を奪い、社会、経済制度を揺り動かして矛盾と不平等を浮き彫りにし、多くの人々の生命だけでなく、雇用をも危険に陥れたと教皇は分析する。その傷痕が、「平和に向けた努力を弱体化させ、社会的な紛糾、鬱憤(うっぷん)、さまざまな形での暴力を生み出す」と警鐘を鳴らした。

さらに、パンデミックの発生から約3年が経過した今、「個人として、共同体として、われわれが問い、学び、成長し、変貌していく時が来ている」と指摘。「危機の前と同じ状況に戻ることはできず、良くなるか悪くなるかのどちらかだ」と訴えた。

また、教皇は、「新型コロナウイルス感染症のパンデミックが残した最大の教訓は、私たち全員が他者を必要としているという認識」であり、「私たちが有する最高の宝は、『皆が同じように神の子供である』という共通基盤の上に立った人類友愛」を原則とし、「誰も一人では救われない」という真実であったと強調した。だからこそ、人類は今、「人類友愛の原則が提唱する普遍的な価値観を、共に追求し、促進していく」ことに緊急に取り組むべきだと主張した。

教皇はさらに、「私たち(人類)が、進歩、技術、世界化現象の結果に対してかけた過度の信頼」を批判し、それが「個人主義的、偶像崇拝的な価値観という中毒につながった」と指摘。一方、パンデミックは、「人間性の回復、消費主義社会の限界、新しい連帯の精神、利己主義の殻を打ち破る、他者の苦しみに寄り添いつながるために自身を解放する、といったポジティブな側面をわれわれに見せてくれた」とも述べた。

また、「全ての国民と国家が“共に”という言葉を中心に置くように」と推奨。この言葉は、昨年実施された東京オリンピックで標語の一つとして追加されたものであり、「友愛と無償の精神から生まれる平和のみが、個人的、社会的、国家的な危機を克服させてくれる」との確信を表明した。

教皇は、パンデミックの収束が見えないうちに、「新しい大災害が人類を襲った」と記してロシアのウクライナ侵攻にも触れた。「この侵攻は、世界中の他の紛争と同様に、全人類の敗北である」と評し、同ウイルスのワクチンは開発されたが、「紛争というウイルスは、外部からではなく罪に腐敗した(人間の)心から来るものであり、克服することがより困難である」と指摘した。

このウイルスに打ち勝つためには、「個人や国家の利益をのみを確保するという考え方を捨て、共通善(公共の利益)という光を燈明(とうみょう)に、共同体の精神を滋養して普遍的友愛に心を開け広げる“私たち”になること」を指標としていく重要性を述べた。

パンデミックが誘発した道徳的、社会的、政治的、経済的危機は、「全て相関関係にある」と教皇は示している。人類は、「全ての人に対する公共医療の保障、戦争や紛争を停止させる平和の促進、私たちの共通の家(地球)の保全に向けた協調、気候変動に対する明確で効果的な対処、不平等との闘い、尊厳性のある雇用、食料供給の保障、移民、難民、社会の底辺で生きる人々の受け入れと同化政策」といった諸問題の解決に挑戦していくことで、「新しい世界」「愛、正義、平和の世界である神の王国」を構築していかなければならないのだ。

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