長期化するウクライナ侵攻に涙を流す教皇(海外通信・バチカン支局)

ローマ教皇フランシスコは12月8日、ローマ市内のスペイン階段付近にある「無原罪の聖母マリア像」に赴き、像の片腕に花輪を捧げ、崇敬の意を表した。

イタリアでは、同日が原罪なくして生まれた聖母マリアを記念する国民の祝日となっている。この日は、時の教皇が同像の前で崇敬の意を表すことが慣習であり、ローマ市民も参加する伝統行事だ。聖母マリア像の片腕は高さ27メートルほどあり、はしごを100段以上も登らなければならないため、消防隊が出動し、最年長の消防士が教皇に代わって花輪を捧げる。クリスマスシーズンの到来を告げるこの伝統宗教行事は、新型コロナウイルスの感染拡大により中止されてきたが、今年、3年ぶりに再開された。

8日のこの行事に出席した教皇フランシスコは、「子供たちのほほ笑み」「老齢者の感謝」「家庭の憂慮」「若者たちの夢と不安」を聖母マリアに伝えながら、「無原罪の聖母よ、今日、本当はウクライナ国民の(戦争終結に関する)感謝をあなたに告げたかった」と報告。「それに反し、あの苦痛にあえぐ地の子供、老人、父親、母親、若者たちの(平和への)嘆願を、今もあなたに伝えなければならない」と祈った。

ここまで聖母マリアへの祈りを捧げた教皇は、声を詰まらせ、泣いて祈りを中断した。

教皇は、ロシアによるウクライナへの侵攻(2月14日)以来、ウクライナ国民の悲苦を自身の身体で感知し、その重圧に耐えてきた。ウクライナの和平を求める教皇のアピールはこれまで100回を超え、最近では、公式の場でウクライナ和平を求めない日はなかったほどだ。ウクライナ国民の悲惨と希望を代弁する重圧を双肩で受けとめ、その重圧に涙を流した教皇を、ローマ市民たちは拍手を送って励ました。

教皇は、「けれども、実際に私たちは、あなたが、あなたの子供(キリスト)の十字架の下に立たれていたように、ウクライナ国民、そして、全ての苦しむ人々と共にあることを知っている」と聖母への祈りを結んだ。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)