ユダヤ教との協調を求めるバチカン(海外通信・バチカン支局)

イスラーム・スンニ派の「ムスリム長老評議会」(アラブ首長国連邦)のモハメド・アブデルサラム事務総長がこのほど、バチカン諸宗教対話省(諸宗教対話評議会)を訪問し、同省長官のミゲル・アンヘル・アユソ・ギクソット枢機卿と「諸宗教対話促進に関するイニシアチブ」「平和と世界諸国間の安定に貢献するキリスト教、イスラーム間対話」「ムスリム長老評議会とバチカン諸宗教対話省との間における協力の発展」などについて話し合った。

バチカンは、ローマ教皇フランシスコとイスラーム・スンニ派最高権威機関「アズハル」(エジプト・カイロ)のアハメド・タイエブ総長が、2019年にアラブ首長国連邦のアブダビで署名した「人類の友愛に関する文書」を基盤にイスラームとの対話を促進している。こうした両宗教間の対話による成果が、イスラーム世界で歴史的に対立しているスンニ派とシーア派間の和解に向けた動きにもつながっている。

さらに、教皇自身が先頭に立って諸宗教対話の促進に関するさまざまなイニシアチブを展開しているバチカンは、ユダヤ教とのさらなる協調を求めて動き始めた。

「世界ユダヤ人会議」(本部・ニューヨーク)は11月22日、バチカン市国内の司教会議ホール(1994年に開催された世界宗教者平和会議=WCRP/RfP=第6回世界大会の開会式会場)で、「キシュレイヌ」(ヘブライ語で“共通の絆”)と呼ばれ、ユダヤ教側が「歴史的なイニシアチブ」と称する取り組みについて話し合う会議をバチカンと共催した。

このイニシアチブは、両宗教間に共通する遺産(創造神を同じくし、アブラハムを共通の祖師とする)に光を当て、各地で紛争や差別が起こっている現在は、キリスト教徒とユダヤ教徒の一致に向けた挑戦との考察から、両宗教間の協調に向けた動きを促進するもの。具体的には、「われわれの二つの信仰共同体が、より友愛的な世界を構築し、さまざまな形の不平等と闘い、より大きな正義を促すことによって、平和を世間外れの約束ではなく、現実に実在するものとしていく」(ユダヤ教側)ことだ。「世界ユダヤ人会議」は、50カ国から参集したユダヤ教指導者と共に開かれたバチカンでの会議を、「カトリック教会の創設以来、ユダヤ教組織が初めてバチカンで開いた会議」と評価した。

教皇は同日、会議に参加したユダヤ教指導者たちに向けてスピーチを行った。この中で、ユダヤ教徒とキリスト教徒は、「人類に起源を与えるのみならず、人間一人ひとりを自身の似姿として形成する、天地の創造主に対する信仰を告白する」と述べ、両宗教に共通する教えについて言及。「われわれの世界は、暴力、抑圧、搾取によって支配されている」が、「永久の神は、(人類)救済の未来、新しい天地について語られた」と示した。

さらに、「その救済がどのような形で実現されるかについて、解釈の違いはあっても、救済のメッセージは共通点として残る」と強調。両教徒が分かち合う宗教遺産に沿い、「現代を共なる挑戦、協調へ向けての刺激として受けとめよう」と呼びかけた。そのためには、「恒常的な世界平和の基本条件の一つである、真理、愛、自由と共に、平和共存の根幹を構成する正義」を共に促進していくことが必要だと訴えた。

また、「世界の多くの地域で平和が脅威に晒(さら)されている」と警鐘を鳴らし、「戦争は、常に、どこでも、いかなる理由であっても、全人類の敗北である」と糾弾した。「ロシアによるウクライナ侵攻も、キリスト教徒とユダヤ教徒を同じように脅かす、非常に冒とく的なもの」なのだ。そして、「双方を近づけるための真剣な意思と友愛の対話においてのみ、平和に向けた地ならしが可能」と訴え、ユダヤ教指導者たちに対するスピーチを結んだ。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)