第39回庭野平和賞贈呈式 マイケル・ラプスレー師記念講演全文
癒されないままのトラウマが、世代を超えて継承されていくことは、多くの人の指摘するところです。それは、個人にも、地域社会にも、国家にもいえることであり、政治的暴力が収まると、家庭内暴力や性的暴力に姿を変えてエスカレートしていきます。庭野平和賞の受賞者発表が行われた同じ週に、ロシアによるウクライナ侵攻が始まりました。何百万人もの人々が家を追われて難民となり、計り知れない苦しみが引き起こされ、第二次世界大戦以降最大の難民危機が発生しました。
当然ながら、今世界はウクライナに注目しています。
アパルトヘイトとの闘いを続けている間、世界中のあらゆる地域の人々が私たち南アフリカ国民を支援してくださいました。思い返せば、大規模な国際的連帯を経験できたことは、私たちにとってたいへん幸運なことでした。
長期にわたる紛争や戦争は、現在も数多くあります。しかし、世界はそうした問題に十分な注意を向けていません。
イエメン、エチオピアのティグレ州、ミャンマーの内戦はその一例に過ぎません。
特にパレスチナ人が抵抗を続けるイスラエルの分離政策については、その倫理的な問題に目をつむっているようです。
1948年、国連は世界人権宣言を採択しました。しかし、2022年になった今も明らかなのは、基本的人権は平等ではなく、人々の間でその重さに差があるという事実です。
ロシアのウクライナ侵攻が始まって間もなく、数百万人の人々が国外に避難する中、ウクライナ国境で多くのアフリカ系住民が人種差別を経験しました。黒人の命が白人の命よりも軽視されたのです。
また、米国のジョージ・フロイド氏の死。黒人男性を中心に多くの命が警察によって奪われてきた米国では、彼の死をきっかけに、「ブラック・ライブズ・マター」運動が急激な盛り上がりを見せました。
この運動がアフリカの国々は言うまでもなく、世界中に反響を呼び起こしたのは、今日まで長年にわたり人種差別に耐えてきた人々の実体験と重なって受けとめられたからでした。
奴隷制と植民地支配で黒人が受けた被害に対し、これまで以上に補償を求める声が強まっています。しかし、白人の特権に関する重要な対話は始まったばかりで、いつになれば対話が変革的正義をもたらすのか、今後の結果を待つしかありません。