グアテマラ・母と子のいのちをつないで 「一食ユニセフ募金」支援事業ルポ
コーヒーの産地として知られるグアテマラ。同国の貧困率は年々上昇し、5歳未満の子どもの半数が慢性的な栄養不良の状態にあり、同国内の社会問題となっている。こうした状況を受け、国連児童基金(ユニセフ)では、地域の医療機関などと協働で、乳幼児や妊婦の栄養改善事業「『はじめの1000日』キャンペーン」を実施。立正佼成会は、「一食(いちじき)ユニセフ募金」の拠出先の一つとして2014年から支援を継続している。2月27日から3月5日まで、本会職員ら8人が現地を訪れ、病院や地域諸施設、家庭などを視察した。事業の様子をリポートする。
「母乳バンク」の普及が鍵に
中央アメリカ北部に位置し、メキシコやベリーズなど4カ国と国境を接しているグアテマラ。16世紀からのスペインによる植民地時代を経て、共和国として独立。1960年から36年間、内戦が続いた。
国民の4割以上を占める先住民の8割は、貧困ライン以下の生活を余儀なくされている。特に農村部では、半数以上の5歳未満の子どもが慢性栄養不良状態にある。幼少期の栄養不良が原因で脳や身体の発達が阻害され、同年齢の子どもの平均と比べ著しく身長が低い。一定の年齢を過ぎると回復が極めて困難で、生涯にわたり心身に大きな影響を及ぼすのだ。
妊娠初期から子どもが2歳になるまでの1000日間に十分な栄養を摂取することが重要なため、同国内の病院や地域では、ユニセフによって乳幼児や妊婦の栄養改善事業「『はじめの1000日』キャンペーン」が展開されている。
首都グアテマラシティーから約100キロ、国立トトニカパン病院を訪れた。国立病院39カ所のうちの一つだ。院内に入ると、母親が乳児に母乳を飲ませている写真入りポスターが目に入った。同病院は、「『はじめの1000日』キャンペーン」の取り組みの一つ、「母乳バンク」に力を入れる。
「母子同室にする」「分娩(ぶんべん)後、30分以内に母乳を飲ませられるように援助する」など、ユニセフと世界保健機関(WHO)が定めた完全母乳育児の促進に関する10カ条をクリアし、2015年に「赤ちゃんにやさしい病院」として認定を受けた。10カ条に取り組むことで栄養不良を改善させ、子どもの発育や知育を促すことにもつながるとして、母親への啓発に力を注ぐ。
ここでは母乳のたくさん出る母親が他の乳児のために母乳を提供している。電動の搾乳器を使用している2人の女性がいた。搾乳した母乳は院内にある「母乳バンク」の検査室で殺菌され、色、濃度などの検査を経て、冷凍保存される。低体重や緊急性の高い状態で生まれた乳児にこの母乳を与えることで、感染症予防、消化器官の強化に効果があるという。
また、「母乳バンク」を通して、新生児の死亡率を下げる取り組みに力を入れるのは、サカテペス県にある国立オスピタル・ナショナル・ペドロ・デ・ペタンクール病院。08年から16年まで、職員が村々を回りながら完全母乳育児の重要性や「母乳バンク」の詳細を伝えたことで、3万人以上の母親から母乳が寄せられた。この活動が功を奏し、8年間で、新生児の死亡率を2%から0.7%まで下げることができた。
トトニカパンの家庭で
標高2500メートルのトトニカパン県。貧困層と慢性栄養不良の割合が多い地域とされる。保健省の職員の案内でフロリンダ・カレルさん(29)の自宅を訪問した。職員は定期的に家庭訪問し、ユニセフが進める、ビタミンやミネラルが含まれた栄養不良を改善するための「微量栄養素パウダー」の提供のほか、妊娠中の注意点を伝え、乳児期の食事のアドバイスなどを行い、子どもたちの成長を見守ってきた。
10畳ほどの敷地内には、寝室1部屋とかまどのある台所、小さな庭にはかすりの糸をくくる器械が置かれていた。フロリンダさんは、コルテと呼ばれるスカートを作るためのかすりの糸をくくる仕事で現金収入を得て、4人の子どもを女手一つで育てている。一日3回食べられるものの、十分な栄養をとることができていないという。昼食後、フロリンダさんはバナナを輪切りにして微量栄養素パウダーを混ぜると、3歳の息子・オーランド君の口に運んだ。オーランド君は、2歳児ほどの身長しかなく、言葉を話すこともできない。慢性栄養不良によるものだ。
6年前まで、同県の子どもの82%が慢性栄養不良だった。事業を通じ、現在は70%まで減少したという。
親に正しい知識を伝える
同県のチュイスック村では、2年前から「『はじめの1000日』キャンペーン」の一環で、子育て中の母親と父親、8歳までの子どもを対象に、リズム遊びや工作などを通じて五感の発達を促す「乳幼児期の子どもの発達(ECD)」の講座が月2回行われている。
午前9時過ぎ、保健省管轄の地域センターに、乳幼児を連れた母親、父親たち41人が集まった。この日、講師を務めた保健省の職員の進行で、母親が子どもを抱きしめたり、歌いながら手拍子したり、色紙をちぎって手のひらで丸めたり、親子で行うプログラムが次々と進められていく。親子一緒に手や体を使って遊ぶ経験を早い時期から続けることで、神経系統の発達に良い影響を与える。こうした知識が徐々に母親たちに伝わり、口コミで参加者も増えている。
先住民の多くは、助産師の立ち会いのもと、自宅で出産するケースが多い。また、助産師も高度な教育を受けている人ばかりではないため、ユニセフでは保健省と協力のもと、研修を通して助産師のレベルアップを図ってきた。
助産師歴22年のマルガリータ・フーリア・アギラール・プワックさん(42)も9年前からこの研修を受講している。<妊婦さんや赤ちゃんを適切にサポートしたい>との願いからだ。
プワックさんの案内で、4月に2人目の子どもを自宅出産する予定の女性(23)の家を訪れた。定期健診だ。ござと毛布を敷いた上に横たわる女性の腹部を触診し、胎児の位置を確認した。「赤ちゃん、いい状態ですよ。心臓の音もちゃんとしています」。聴診器を当てた後、プワックさんが笑顔で伝えると、女性も安心した表情を見せた。
「ユニセフの支援で研修を受け、適切な知識を得ることは大事。先住民の人たちの文化を尊重しながら、出産の正しい知識を伝えていくことが私の役割です」。プワックさんはそう語った。