軍隊は何のために存在するのか――今、平和の理念が求められている(バチカン記者室から)

コロナ禍で行われたバチカン記者室での記者会見は、来場者の人数が制限され、多くの記者がオンラインで参加した

バチカンには毎日、カトリック系の国際通信社のほか、さまざまなメディアを通じて、各国の諸宗教情報が大量に届く。この状況を、「宗教情報に関する世界最大の交差点」と呼ぶこともできるだろう。

ちなみに、宗教全般に関する認知度はバチカンのメディアだけでなく、イタリアの一般メディアも高い。また、日本のメディアとは比較にならないほど宗教に関する情報を発信する。新聞であれば、十分に紙面のスペースを割く。宗教メディアには一般メディアと同等の資格と権利が認められ、宗教メディアの記者であってもイタリア記者協会に登録できる。

さらに、バチカン市国は、世界における「平和外交の十字路」といえる。世界最小の独立国家でありながら、現在183カ国と外交関係を樹立しており、世界外交史の中でも最古の伝統を誇る。バチカンの外交は、その究極的な目的を「平和」としており、各国元首によるバチカン訪問が絶え間ない。しかも、そのたびに声明文が公表され、ローマ教皇フランシスコをはじめ、国務省長官や同省外務局長(外相に相当)との懇談内容が明らかにされる。バチカンは、宗教情報と平和を目的とする国際政治の合流点でもあるのだ。

本稿を執筆中の6月28日朝、アントニー・ブリンケン米国務長官がバチカンを訪問し、教皇、バチカン国務省長官のピエトロ・パロリン枢機卿、同省外務局局長のポール・リチャード・ギャラガー大司教と懇談した。バチカンが公表した声明文には、両指導者が「友好的な雰囲気の中で40分間懇談」とあり、教皇は「2015年の米国訪問を追憶しながら、米国民への情愛と思いやりを表明した」とのことだ。国家元首ではない同長官と40分間にわたり懇談し、国家元首の訪問に限って発表される公式声明文が出されたのは異例である。

昨年11月、米国大統領選挙を前にローマを訪問したトランプ政権のマイク・ポンペオ国務長官に対し、バチカンは「教皇は選挙活動中の政治家とは会わない」という理由で懇談を断った。その背景には、中国政府と協議していた同国内での司教任命権に関する暫定合意の延長について、トランプ政権とバチカンが鋭く対立していたこともあった。

だが、今回の懇談は、米国がバチカンに“戻ってきた”(“America is back”)との意味を表すものでもある。国際協調路線に回帰した現在の米政権への期待の表れといえる。懇談では、気候変動、貧困の解消、開発途上国への新型コロナウイルスワクチン提供、同ワクチンの知的所有権問題、移民や難民の問題、中東地域での“友愛”を基盤とした和平プロセス、世界の紛争地域など多国間主義が必要とされる議題についても意見が交わされたと推測される。今秋には、イタリアで開催される20カ国・地域首脳会議(G20)に参加するバイデン米大統領と教皇が会見するとみられる。