第38回庭野平和賞 台湾の尼僧 昭慧法師に
第38回庭野平和賞 受賞者メッセージ(要旨)
コロナ禍の後は、以前とは異なる社会になります。世界規模で起きているこの事態を、私たちは強烈な経験として共有していますが、分断が生じ、分裂が深まる様相も呈しています。こうした変容する状況を、いかにして癒やしと平和構築の方向に向かわせられるかを熟考しなければなりません。そのために私は、仏法に目を向けることを提案します。
一切衆生を慈しんで人生を歩む「菩薩道」から、一つ目の教えを引き出せます。私たちが関心を持たなくてもよい存在など一つもありません。私たちは、一切衆生の苦しみを軽減するだけでなく、その幸福や利益のために積極的に働くことで、相手に心を寄せていると示すことができます。
菩薩道は、人からの報酬や評価を期待するものではありません。自分以外の人々に有意義なことをなし、そのことによって、その行為の成果を常に高めることができます。利己心と自我への執着を手放す修行でもあります。
二つ目は、「縁起の法」です。縁起の法によって、他者から孤立した自分などないことを理解できます。人生におけるどのような成果もたくさんの支えによるものであり、全てに感謝せずにはいられません。
最後にもう一つ。仏法は、一人ひとりに疑問を湧かせ、じっくりと考える能力を高めてくれます。平和を推進するために、人々に危害が加えられている場面を見たら、たとえ相手が政府や仏教教団、巨大な組織であっても「ノー」と言わなければならない時があります。私は1990年代以降、ギャンブルや動物虐待、核(原子力)エネルギーの拡散、そして愛や家族に関する差別的解釈の問題への抗議運動に関わってきました。それらがいかに大きな害を及ぼしているかを目にしてきたからです。行動を起こすことで、私たちの心と世界に平穏と平和が生まれます。
新型コロナウイルスの世界的大流行が私たちに与えているもの、それは一切衆生のためにより良い社会を構築するための機会です。平和への献身の覚悟を持って、謹んで庭野平和賞をお受け致します。
釈昭慧
第38回庭野平和賞の選考に当たった庭野平和賞委員会委員
▼委員長=スーザン・ヘイワード氏(米国、キリスト教、米国平和研究所相談役)▼庭野日鑛・庭野平和財団名誉会長▼ハルシヤ・クマラ・ナヴァラトネ氏(スリランカ、仏教、セワランカ財団理事長、仏教者国際連帯会議理事長)▼サラ・ジョセフ氏(英国、イスラーム、ムスリムのライフスタイルマガジン「emel」CEO兼編集者)▼ランジャナ・ムコパディヤーヤ氏(インド、ヒンドゥー教、デリー大学東アジア学部准教授)▼フラミニア・ジョバネッリ氏(イタリア、キリスト教、ローマ教皇庁人間開発のための部署次官)▼ムハンマド・シャフィーク氏(米国、イスラーム、ナザレス大学諸宗教研究対話センター所長)▼ノクゾラ・ムンデンデ氏(南アフリカ、アフリカ伝統宗教、イカマグ協会会長)
※選考後にスーザン・ヘイワード氏が退任し、サラ・ジョセフ氏が新委員長に就任した