「ローマ教皇フランシスコが来年3月にイラクを訪問」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)
ローマ教皇フランシスコが来年3月にイラクを訪問
バチカンのマテオ・ブルーニ広報局長は12月7日、ローマ教皇フランシスコが来年3月5日から8日までイラクを訪問すると公表した。イラク政府と同国カトリック教会(カルデア派)からの招待によるもの。首都バグダッド、ユダヤ教、キリスト教、イスラームに共通する祖師・アブラハムの生誕地とされるウル、キリスト教徒の多い北部のアルビル、「イスラーム国」(IS)を名乗る過激派組織の拠点だったニネヴェ平野のモスル、その近郊のカラコシュを訪れる予定だ。
実現すれば、歴代教皇による初のイラク訪問となる。また、新型コロナウイルスの世界的な流行で、昨年11月のタイ・日本訪問を最後に中断していた教皇の外遊の再開となる。ただし、同広報局長名の声明文には、「イラク訪問の詳細なプログラムは後日に公表されるが、世界の医療危機(コロナ禍)の状況を考慮して決定される」とあり、訪問地の変更や日程延期の可能性もある。
教皇は昨年6月10日、「2020年にイラクを訪問したいとの思いが、私の念頭を離れない」と発言。今年1月に同国のバルハム・サリフ大統領と会見した時も、「イラク国内の安定と再建のプロセスを促進し、市民の権利、また国家の主権を尊重する対話と適切な解決策を奨励することに貢献する」との意向を表明していた。
だが、不安定なイラク情勢下で、教皇の訪問は実現しなかった。来年の外遊では、湾岸戦争(1991年)、イラク戦争(2003年)、ISを名乗る過激派組織によって破壊されたイラク社会の再建に向けた取り組みの推進、国民間の和解を訴えるとともに、長引く紛争と迫害によって国外に亡命し、約30万人の信徒から半減したカトリック教会を励ますことが予想される。
また教皇が、アブラハムの生誕地とされるウルで、先の3宗教に共通する祖師の名により、3宗教間の対話と人類友愛の精神に沿って中東和平を構築するようにアピールすることも考えられるという。アッシジの聖フランシスコは中世に、聖都エルサレムの攻防を巡り、キリスト教の十字軍と交戦するイスラーム指導者をエジプトに訪ねて和平交渉を試みた。その精神が、同じ「フランシスコ」を名乗る教皇を支えることだといわれている。
イラクのカルデア派カトリック教会の最高指導者であるルイス・サコ枢機卿(バグダッド大司教)は12月7日、教皇の勇断に感謝の意を表明。「人類友愛のメッセージを抱えての巡礼」(バチカンニュース)が、「長期にわたる不安と恐怖、また多くの問題の中で生きる東方のキリスト教徒とそこに住む人々に、より良い状況をつくるための支援と希望を与えてくれる」と強調した。新回勅『すべての兄弟たち 友愛と社会的友情に関して』は、キリスト教徒だけでなく、中東諸国の人々にとっても意味を持つとも述べた。中東では「紛争、死、破壊、腐敗」ではなく、「信頼、和平、安定、人類の連帯」が必要とされているからだという。
世界保健機関(WHO)の統計によると、今年、イラクでの同ウイルスの累計感染者数は約56万6000人、死者は1万2000人を超える。