「ローマ教皇フランシスコが来年3月にイラクを訪問」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)

米国新大統領とバチカンに“雪解け”の兆し

今年11月の米大統領選挙で、当選を確実にしたのは、『より良く建て直す』(Build Back Better)をスローガンに国民の結束を訴えたジョー・バイデン前副大統領だった。新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めをかけ、政治的、人種的に深く分断された状況の回復に期待が集まった格好だ。

トランプ米政権とバチカンはこれまで、移民、難民の不法入国を阻止する壁の建設、自国至上主義を掲げた多国間主義の否定と国連外交の軽視など米国を巡って鋭く対立してきた。このほかにも、中国との外交関係、宗教の政治利用、中東と聖都エルサレムへの米大使館移転、人種差別、気候変動、核兵器廃絶などの諸問題へのスタンスの違い、米国カトリック教会の分断の誘発など理由は多岐にわたる。しかし、バイデン氏の当選を受けて、米国とバチカンとの関係に、“雪解け”の兆しが見え始めていると伝えられる。バイデン氏がカトリック信徒であるだけでなく、同氏とローマ教皇フランシスコの掲げる、コロナ禍収束後の世界再建に向けたビジョンに、共通点が多いからだ。

教皇はこれまで、同ウイルスの流行を受けて、「世界は元に戻ることはなく、良くなるか、悪くなるかのいずれかだ」とたびたび発言してきた。12月3日には「国際障害者デー」に合わせて、『より良く建て直す(Build Back Better)――障害者を内包し、(彼らにとって)近づきやすく、持続性のある新型コロナウイルス収束後の世界に向かって』と題するメッセージを公表した。

その中で、同ウイルスの世界的な流行が、現代社会の不均衡と不平等をより明確にしたと指摘。「全ての人、特に、より困難な状況で生きる人々が排除されることがない市民社会のイニシアチブを確立していくことが包摂(inclusion)の礎となる」と主張している。

バイデン氏の当選が確実となった11月12日、同氏の政権移行チ-ムは、バイデン氏が教皇と電話で会談し、「社会で疎外されている人々、貧者、気候変動危機、移民や難民の受け入れと同化問題に関し、全ての人間の尊厳性と平等性を主張する共通の信仰(カトリック)に沿い、教皇と協力していきたい意向を表明した」と明らかにしていた。

イタリアの日刊紙「コリエレ・デラ・セラ」(電子版)は12月5日、教皇とバイデン氏に共通するビジョンを取り上げ、「米国のカトリック教会は(トランプ派とバイデン派に)分断されているが、バチカンではバイデン氏の勝利が安堵(あんど)感を持って受け容れられている」と報じている。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)