中東和平を危機に陥れる一方的な決断――バチカンとWCC(海外通信・バチカン支局)

バチカン国務省長官のピエトロ・パロリン枢機卿は6月30日、イスラエル政府が7月1日からパレスチナ自治区の一部併合の法整備を進めるとしていたことに対して強い懸念を示した。世界教会協議会(WCC)やルーテル世界連盟(LWF)などキリスト教プロテスタント諸団体もこれに先立つ29日に、同様の趣旨の声明文を発表した。

イスラエルでは今年5月、ネタニヤフ首相(右派政党「リクード」)と中道野党連合「青と白」を率いるベニー・ガンツ元軍参謀総長による連立政権が発足した。その際、連立合意として、パレスチナ自治区のヨルダン川西岸にあるユダヤ人入植地と、ヨルダン渓谷の併合に向けた法整備を7月1日から始めることが発表された。トランプ米政権はイスラエル政府の主張通りにエルサレムを首都と認め、アメリカ大使館をエルサレムに移転させており、そうしたトランプ米政権の支援を受けながらパレスチナ自治区への占領政策を国内で合法とすることを目指したのだ。

イスラエルは1967年の第三次中東戦争で東エルサレムやヨルダン川西岸、ガザ地区を軍事占領し、81年にはゴラン高原を併合した。こうして占領地を拡大してきたが、ゴラン高原以来の大規模な占領政策の実施になる。ただ、イスラエルとパレスチナの紛争を終わらせ2国家の共存を約束した1993年のオスロ合意締結後も、イスラエルはパレスチナ自治区への入植を進めてきた。こうしたイスラエルの強硬政策は「国際法違反」として国際社会の批判を浴びている。イスラエル寄りのトランプ政権の政策に対しても同様だ。

WCCやLWFなどは6月29日、「イスラエルによる(パレスチナ自治区の一部)併合が平和と正義を危機に陥れる」との合同声明文を公表した。この中で、イスラエルによるパレスチ自治区の一部併合は国際法に違反し、数々の国際協定にも反すると非難。「イスラエルの一方的な決断に対し、国際共同体は緊急に行動を起こすべき」と訴えている。また、「平和は、一方的な強制や、暴力手段によって実現されるものではない」と強く主張している。

パロリン枢機卿は同30日、米国とイスラエルの駐バチカン大使と懇談。イスラエルによる一方的な行動が、「イスラエル・パレスチナ間の和平交渉、さらにはデリケートな中東情勢を一層危機に陥れる可能性がある」と憂慮の念を表した。

さらに、「イスラエル国家とパレスチナ国家は、国際的に認められた国境で平和と安全のうちに存在し、(両国民は)生きていく権利を有する」と強調。和平交渉に関わる諸国や国際社会に対しては、これまでに国連で採択された決議を基に両政府の直接交渉が再開されるよう努力を求めた。それには、イスラエルとパレスチナ間の信頼を醸成する取り組みが不可欠であり、「衝突ではなく出会い、暴力ではなく対話、敵対ではなく交渉、挑発ではなく協約の尊重、ずるさではなく誠実を選択する勇気」を持つことが重要と話した。

イスラエル政府は7月3日、国内での新型コロナウイルス感染拡大の対処、米国とのさらなる協議を理由に、パレスチナ自治区の一部併合に関する法案を議会に提出することを見送ると発表した。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)